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叢書・知を究める23 予防の倫理学 事故・病気・犯罪・災害の対策を哲学する

18面記事

書評

児玉 聡 著
個人の自由とのバランス問う

 病気・犯罪・災害などのさまざまなリスクに対しては、事後的な対処・対応に加えて事前的な対応、すなわち「予防」が重視される。本書は疾病の予防、防犯、防災にまつわるさまざまな事例を挙げながら、政府や社会が「予防」として何らかの介入を行う際に、どのような性質の緊張関係(価値判断の衝突)が起こり得るのか、といった論点を整理している。
 例えば予防接種については、感染症が脅威であるうちは個人と社会の双方に対するメリット(個人防衛・社会防衛)が意識されるが、感染症の制圧が進むと、接種による健康被害のリスクなどのコストが意識され、予防接種を忌避する人々が現れやすくなるという「予防のパラドクス」が説明される。これはコロナ禍等を通じて私たちが目にした事象をよく説明している。同様に、「予防」が個人の自由などとどのような摩擦を起こし得るのか、といった点がトピックごとに整理される。
 自転車の安全対策、自殺予防、犯罪予防、児童虐待防止、性犯罪予防、いじめ対策、ハザードマップの意義と課題など、教育関係者にとって身近なテーマも多く並ぶ。教育の文脈では漠然と「必要なもの」とくくられがちな「予防」だが、「どこまで可能か」「思った通りの効果が挙がるのか」「そもそもジレンマが内包されていないか」など、立ち止まって考える素材を提供してくれる一冊である。
(3300円 ミネルヴァ書房)
(川上 泰彦・兵庫教育大学教授)

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