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未来へ継承する学校施設へ 柔軟で創造的な学習空間や地域社会との共創空間を

11面記事

施設特集

狭い教室は協働学習に向いていない

 社会の在り方が劇的に変わる「ソサエティ5・0時代」の到来、新型コロナウイルスの感染拡大など先行き不透明な「予測困難な時代」に活躍できる人材育成を目指す、「令和の日本型学校教育」を実現するためには、その生活・学習拠点となる学校施設も生まれ変わっていかなければならない。ここでは、現時点で学校施設が抱える課題を明らかにするとともに、未来へと継承するための望ましい学校づくりの在り方を紹介する。

地域・学校間格差が広がる状況

 全国規模で老朽化が進む学校施設は、今の時代にふさわしい豊かで快適な教育環境へと造り替えていくことが急務となっている。そこでは、学校設置者が中⻑期的な将来推計を踏まえ、⾸⻑部局との横断的な協働を図りながら、トータルコストの縮減に向けて計画的・効率的な施設整備を推進することがポイントになる。
 しかし、新築・改修が進む一方で、財政不足から改修計画に遅れを生じる自治体もあり、地域・学校間の格差が拡大。とりわけ、統廃合や小中一貫校として新設された学校と、既存の校舎をそのまま利用する学校とでは、生活・学習面での施設設備の格差は著しいものとなっている。
 また、学校設置者が改修を行う上では、これまで以上に民間事業者と積極的な連携を図っていくことも必要になっている。なぜなら、校舎自体の長寿命化を図りつつ、高機能化や脱炭素化を施していく上で、施設整備の現場は改修ノウハウの蓄積や専門職員の不足の解決など多くの課題を抱えているからだ。
 さらに、ICT活用による学びのスタイルの変容に対応した柔軟な教室・空間づくりや、子どもの多様性に応えたインクルーシブな教育環境の実現など、時代の要請に沿った改修にも着手していかなければならないほか、災害時に地域の避難所となる屋内運動場の防災機能を強化していくことも求められている。

来年度の学校施設関連予算
~教育環境の向上と老朽化対策の一体的な整備の推進~

 では、こうした中で文科省の来年度に向けた学校施設関連の政策動向はどうなるのか。昨年末に閣議決定された2023年度補正予算を含めて紹介する。
 まず、2024年度の概算要求では公立学校施設整備に683億円+補正予算1558億円を計上。ここでは、新しい時代の学びを支える安全・安心な教育環境の実現を目指し、3本の柱を立てている。

 (1)新時代の学びに対応した教育環境の向上と老朽化対策の一体的な整備の推進=学校施設の長寿命化を前提に、多様な学習活動に対応できる多目的な空間や、バリアフリー化、特別支援学校の整備を進める。また、他施設との複合化により学習環境を多機能化しつつ、効率的に整備する。
 (2)防災・減災、国土強靭化の推進=激甚化・頻発化する災害への対応として、非構造部材の耐震対策、空調設置、洋式化を含めたトイレ改修といった避難所としての防災機能を強化する。
 (3)脱炭素化の推進=年間で消費する建築物のエネルギー量を大幅に削減するとともに創エネでエネルギー収支「ゼロ」を目指した建築物を目指す、学校施設のZEB化(高断熱化、照明、高効率空調、太陽光発電等)や、温かみのある学習環境として木材利用(木造、内装木質化)を促進する。

 また、そのための具体的な支援策として、2027年度まで学びの多様化学校や夜間中学として小中学校等を設置する自治体に対する施設整備に係る支援を拡充する制度改正や、物価変動の反映や標準仕様の見直し等による単価改定を実施する。 加えて、学校施設環境改善交付金では、整備が遅れている学校の屋内運動場等における空調設備の新設を重点的に支援するため、16億円を盛り込んでいる。

DXやものづくりを支える基盤整備も拡充

 そのほか、国立大学・高専等施設整備には、363億円+補正予算603億円を盛り込んだ。施設の戦略的リノベーションによる老朽改善、DXを含む教育研究の高度化・多様化・グローバル化等の機能強化、脱炭素化を促進し、キャンパスの質及び魅力の向上を図る。高等専門学校の高度化・国際化に向けても補正予算を含めて707億円を計上。わが国のものづくりを支える高度技術者を育成する事業や、金属3Dプリンタ、精密旋盤など学修環境の基盤となる設備の更新に充てる。
 私立学校施設・設備の整備は、93億円+補正予算109億円。内訳は、公立校よりも遅れている耐震化等対策に80億円、熱中症対策となる教室や体育館等へのエアコン設置やバリアフリー対策など、安全・安心な生活空間の確保に必要な基盤整備に117億円となっている。また、幼児教育の質を支える教育環境の整備では、ICT環境整備や施設の耐震化等に使える予算として13・4億円+補正予算39億円。
 併せて補正予算では、学校施設の災害復旧を後押しする経費や、各学校が実施する効果的な換気対策に係る取り組みを支援するため、CO2モニター、サーキュレーター、HEPAフィルター付空気清浄機の換気用備品購入に係る経費を盛り込んだ。

個別学習やグループワークに適した教室を

 このような施策が推進される中で、多様な学習活動に柔軟に対応できる学習空間が望まれるのは、すべての子どもたちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びを実現する上では、従来までの一斉授業スタイルから指導法を変えていく必要があるからにほかならない。
 加えて、GIGAスクール構想による1人1台端末やタブレット保管庫の導入で、教室面積や机の狭さ問題がよりクローズアップされるようになったことも理由の一つに挙げられる。高度経済成長期に大量整備された公立小中学校の教室は約7割が65平方メートルという教室面積で、子どもたちが自由に移動して学び合う授業を行うには手狭過ぎる。同時に、今使われている机の半数ほどは旧JIS規格の机(幅60センチ×奥行40センチ)となっており、教科書と端末を同時に広げて使うには不十分だ。
 このため、文科省では改修時に壁を取り払って教室と教室をつなげたり、廊下との境をなくして広めに使ったりするなどして教室空間を広げることや、机自体も幅・奥行きを5センチずつ拡大した新規格の机に切り替えていくよう求めている。その上で、個別学習やグループでの活動に柔軟に使えることを意図し、余裕教室を生かした多目的スペースの整備を提唱。ここでは、活動に応じてさまざまな利用が可能な可動式の家具や間仕切り、内装木質化による温かみのある空間となることを求めている。
 さらに、2019年時点で通級指導を受けている児童生徒数は13万人を超え、医療的ケア児は1500人に迫るなど、特別な支援が必要な子どもが増えていることを受けて、通級による指導ができる教室やクールダウンできるスペースなどを整備することを打ち出している。そのほか、働き方改革が進められる中での教職員の執務環境についても、オンライン会議や少人数で打ち合わせができるスペース、休憩ラウンジなどを取り入れ、パフォーマンスを最大化するための空間に造り替えていくことを推奨している。

個別学習やグループワークなど多様な学習活動に対応できる教室が必要だ

開かれた学校が目指す「共創空間」

 一方、新時代の学びに対応した教育環境という点で重視しているのが、地域や社会と連携・協働し、ともに創造する「共創空間」を実現していくことだ。これからの時代に必要な資質能力を育成するには、多様な人々と協働しながら社会的変化を乗り越える力を身に付ける必要があり、そのためには学びを学校の中で完結するのではなく、「外との学び」を推進しなければならないからだ。
 文科省が2022年にまとめた「新しい時代の学びを実現する学校施設のあり方」では、「共創空間」を実現するポイントとして5つを挙げている。そこでは、コミュニケーションや創造性を誘発する空間、協働の成果を展示・発信するスペース、地域の⼈たちとの交流拠点といったキーワードが示されているが、地域社会との融合という観点では他の公共施設との複合化も有効といえる。なぜなら、複合化を図る場合は対象部分にかかる経費の2分の1まで補助率が引き上げられるからで、地域の活性化にも応用できるからだ。
 ただし、これまでの公立小中学校施設の複合化事例の大半は地域防災備蓄倉庫にとどまっている。これを、地域コミュニティーとなる共創空間づくりを目指した複合化へと発展していく自治体としての知恵や工夫が必要となる。

校舎の機能や性能を高める

 学校施設の「長寿命化改修」では、老朽化した施設を将来にわたって長く使い続けるために、単に物理的な不具合を直すのみではなく、建物の機能や性能を現在の学校が求められている水準まで引き上げていくことが前提となる。
 その一つとなる健やかな学習・生活空間の視点では、衛生環境の改善につながるトイレの洋式化・乾式化とともに、壁や床の抗菌化、自動水栓化も急がれている。明るく清潔なトイレに生まれ変わることは、子どもの心身の健康や生活態度の改善などに直結し、教育効果も大きい。なお、公立小中学校の2020年時点での洋式便器率は57%にとどまっている。
 また、段差や階段の多い校舎・屋内運動場のバリアフリー化もいまだ不十分だ。障害を持つ子どもや教職員はもちろん、学校開放によって多様な年齢の人々が学校教育に関わる中で、誰もが等しく快適に過ごせる施設にすることは不可欠な要素といえる。このため、文科省は2025年度までにすべての学校に段差解消のためのスロープや車椅子使用者用トイレを設置するとともに、エレベーターも要配慮児童生徒等が在籍するすべての学校に整備するよう求めている。
 快適で豊かな教育環境づくりでは、木材利用の推進が挙げられる。今や新しく建築された学校施設では木材利用がスタンダードだが、既存校舎においても改修時になるべく内装木質化を図り、温かみのある施設へと生まれ変わらせていきたいものだ。

段差を解消するスロープ

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