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すべての教室に「断熱改修」を 激化する暑さから子どもたちを守るために

12面記事

施設特集

 老朽化した校舎の大半は無断熱のため、夏季にはいくらエアコンを稼働させても教室の室温が30度を下回らず、子どもたちの健康や学習への影響が危ぶまれる状況となっている。そこで、前真之・東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授に、今の教室が抱える問題点と、暑さ寒さ問題を改善する断熱改修の効果について聞いた。

前 真之 (まえ まさゆき) 准教授 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻
 1975年生まれ。学生時代より25年間以上、住宅の省エネルギーを研究。健康・快適で電気代の心配がない生活に向けたエコハウスの実現と普及のための要素技術と設計手法の開発に取り組んでいる。

―教室の暑さ寒さ問題は、エアコンを設置しても解消されていません。

 私は住宅の省エネルギーが専門ですが、日本の家には断熱・気密性能が決定的に不足しており、古い校舎も同様です。しかも学校の修繕予算は非常に少ないことから、建築の性能としては、私の小学校時代からずっと改善されることなく、ただエアコンだけが追加されただけで今日に至っています。そのため、温暖化の進行で夏の気温上昇が年々厳しくなる中、もはや我慢できる限界を超えているのが現実です。こうした中で、子どもの健康を気遣う保護者やボランティアが立ち上がり、自前で教室の断熱改修工事を実施する動きが全国で始まっています。私も協力したさいたま市の小学校のケースも、先生から地元の工務店の人に「エアコンが効かず子どもたちが耐え難い暑さに苦しんでいる、何とかなりませんか?」と相談があったのがきっかけです。

―実際に最高気温38・2度の日に教室の温熱環境を計測したところ、天井の表面温度は42度に達していたそうですね。

 はい。特に最上階の教室は天井の放射熱で頭が加熱されてクラクラする暑さで、CO2濃度も学校環境衛生基準となる1500PPMを大幅に超えていました。無断熱な教室では遮蔽されていない窓からの日射熱が加わり、換気のために開けた窓からも高温高湿の外気が侵入します。しかも、学校の教室は窓面積が大きいため、エアコンをフルパワーで運転しても熱侵入が大きすぎて室温が下がらないのです。だからといって窓を閉めると換気ができず、CO2濃度が上昇するという悪循環に陥っているのが実態です。また、冬はその逆で無断熱の屋根、壁、窓から熱が逃げるので寒いということになります。
 学校には2018年度の補正予算によって教室にエアコンが一気に整備されましたが、残念なのはその際に建物自体の日射熱を防ぐ対策にまったく触れられなかったことです。本来、子どもたちが快適で健康に過ごせる環境づくりは、省エネやCO2削減とトータルで考えて行っていくべきもので、それには教室への熱侵入を防ぐ断熱改修も同時に実施する必要がありました。自治体が予算ありきでエアコン整備だけを進めたツケが、子どもの健康を脅かし、エネルギーロスによる電気料金の増大を生んでいるのです。

―学校改修を計画する行政側に、「断熱化」という発想がなかったことが大きいと思います。

 日本の多くの人は住宅に性能があるという知識が欠けています。国交省によれば、今も妥当な断熱性能のある住宅は13%しかありません。学校を訪れた際も、「エアコンをつけてもなぜ教室が暑いのかがわからなかった」という声を聞きました。ですから、現在の深刻な温暖化を無視して「昔の学校は何もなかった、ぜいたくだ」と考えている人、とりわけ行政のトップや学校施設の改修に関わる方には、ぜひ一度、実際に夏場の教室に来てみてくださいと言いたいですね。子どもたちの置かれている状況をご自身で感じれば、断熱改修の必要性もご理解いただけると思います。
 脱炭素化の観点から見ても、今の学校教室のエネルギー効率の悪さは際立っています。断熱改修で熱負荷を減らせば、何も高価な業務用エアコンを使わなくても家庭用エアコン2台もあれば十分で、トータルコストとCO2を大幅に削減できるはずです。

―その中で、学校の教室を低コストで断熱改修する方法として、「天井・壁の断熱」「窓の日射遮蔽・断熱」「換気設備」の3点セットを提案しています。

 天井や壁などに断熱材を入れる。窓を樹脂サッシや複層ガラス、内窓にしたり、遮光シートを貼ったりして外の熱を伝わりにくくする。換気扇に室内のCO2濃度を制御する、デマンド換気コントローラーを設置することです。断熱性能が向上すると、室内の環境が外気に影響されにくくなり、室内を快適に保つための暖房や冷房に必要なエネルギーを減らすことができます。実際にこうした断熱改修を行った小学校の教室では、屋根からの熱侵入が無断熱の5分の1以下になって室温が5~6度下がり、CO2濃度も基準内に収まるようになりました。この方法であれば、そんなに予算をかけなくても教室の温度を夏冬通して快適に保ち、キレイな空気も確保できます。

―最後に、教室の断熱改修に向けたメッセージを。

 最高気温が35度を超える猛暑日が年々増えている中で、教室の環境改善は待ったなしの状況を迎えています。しかし、善意のボランティアや修繕ついでの断熱化に頼っていては、すべての教室が改善できる日はいつになるのか見通しが立ちません。少なくとも日射熱の大きい最上階の教室の天井や窓は、来年度を目指して早急に断熱化を図っていく必要があると考えます。
 学校では体育館も無断熱なため、夏場は利用を控えているところも現れています。現在、避難所機能の強化として進められている空調設置も、最低限、屋根だけは断熱性を確保して整備しなければ過大な能力や光熱費が必要になってしまうことから、文科省も断熱性能の確保とあわせた空調設置に国庫補助を設けています。
 子どもの健康を守ることは、国・自治体の責務です。ぜひ、激化する暑さから子どもたちを守るため、断熱改修のスピーディーな普及を実現してください。

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