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豊かな学びを作る生成AI利用法

9面記事

ICT教育特集

 ChatGPTに代表される「生成AI」の世界的な普及を受け、教育への利用にも期待が高まっている。生成AIは文章を作成したり、精緻なイラストを描いたりするなど、まるで人が行っているように「何かを作る」ことができる。新たなITツールを授業や子どもの学びにどのようにつなげていけばよいのか。生成AIの教育利用に関する研究を手掛ける早稲田大学教職大学院教授の田中博之氏に聞いた。

田中 博之 早稲田大学教職大学院教授
各教科・領域で使える生成AI

 ―学校で生成AIを使うと、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 生成AIは、人間の創造性や表現力、課題解決力を向上させ、知的な活動の生産性を高めてくれるものです。2023年3月にリリースされたChatGPT(GPT―4)は人と話しているように対話をしながら、文章を書いたり、絵を描いたり、情報収集してまとめたりすることができる高性能なものになっています。
 子どもの学習支援で利用するなら、自分の考えを広げたり深めたりすること、仮説検証の練り上げや修正、プレゼンテーションの作成支援などに生きると考えます。AIの仕組みや、長所と短所を理解する「AIリテラシー教育」を実施したうえで、積極的に使っていけば子どもの多様な資質・能力の育成につなげられます。
 また、先生方も生成AIを使って創造的、効率的に仕事をすることができます。新しいタイプの授業や活動の単元開発や発問を作成する授業開発、また、学級通信の下書きや子どもアンケートの統計分析などの校務支援にも使えます。

考えを広げ、新たな視点・価値観が持てる

 ―具体的な実践例はありますか。

 道徳科では「多面的・多角的に考える」授業が実現できます。『手品師』という有名な道徳教材がありますね。大舞台での活躍より、少年との約束を守ることを選んだ手品師の姿から「正直・誠実」を考える題材です。話し合いの前に生成AIに、子どもたちの考えをゆさぶるような提案をするよう設定しておくのです。「約束を守ることは誠実だ」という結論を子どもは想定するのですが、生成AIは「大人が生きていくためには約束を破ることもあり得るのでは」「少年から見た誠実さを考えてみたことがありますか?」などと提案してきます。考えもしなかった多面的・多角的な見方に触れ、子どもたちはぐっと深く考えるようになるのです。生成AIが1台あるだけで考え、議論する道徳になった例です。
 他の教科で言えば、国語科では物語の続きを考えたり、書き換えたりする創作活動、子どもの作った作品の評価や改善に役立ちます。算数・数学科では、証明の評価や改善、別の解き方をたずねるといった使い方があります。社会科では資料の検索、仮説の練り上げや考察、レポートを改善するためのアドバイザーとして使えます。図工や音楽、総合、プログラミング教育などすべての教科・領域で可能性が広がっています。

アカウント問題の解決がカギ

 ―生成AIの利用法は無限大と言えそうです。現場での機運はどのくらい高まっていますか。

 定量的に示すのは難しいですが、生成AIの教育利用はまだこれからといったところです。理由として文科省が2023年7月に公表した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」で慎重な姿勢が示されたことが挙げられます。
 生成AIツールの利用料や利用規約も壁になっています。OpenAI社が提供するChatGPT(GPT―4)の場合、精度は高いのですが有料です。1アカウントを数人で使うにしても予算措置が必要になります。さらにChatGPTの場合は利用できるのは13歳以上、18歳未満の場合は保護者同意が必要で、13歳未満の子どもが1人で使うのは認められていません。そうなると全員が使えるのは中学2年生からということになります。小学校では、子どもが直接生成AIに入力するのではなく、先生が代わりに行うなどの工夫をしています。
 また、教育委員会の判断もまちまちです。校長判断でAIを導入できるところもあれば、足並みをそろえようとする地域もあります。先生方が校務や教材研究に用いるにしても、本格的に生かしているケースはごく少数です。現在「生成AIパイロット校」が全国で52校指定されています。その成果を待って、24年度後半に生成AIの利用を始める学校が少しずつ出始める、そんなイメージを持っています。

生成AIは教員の心強い味方

 ―生成AIの利用が進むと、教員の役割は変わってくるでしょうか。

 「AIの発達で教員の仕事がなくなる」などと言われますが、生成AI利用でむしろ教育は豊かになる、と私は考えます。これまで先生一人ではできなかった支援をしてくれる「ティーチング・パートナー」だからです。「1人1台生成AI時代」が実現すれば、クラスの子どもの数だけ個別の支援ができます。つまり1人の先生が40人のゲストティーチャーや家庭教師を味方につけるようなものです。創作力や表現力を個別に伸ばすことができますし、課題のある子どもの支援にも力を発揮しますから、ぜひ生成AIを教室に迎えてほしいです。
 AIには文章生成、画像生成、動画生成、音声生成など、さまざまな種類があります。教員の役割はこれらの利用全体をコーディネートすることです。デメリットにはしっかりとリテラシー教育をして対応いけばよいのです。力強い味方が増やせると捉えて授業改善に役立てることが求められているのではないでしょうか。

田中 博之 1960年北九州市生まれ。大阪大学人間科学部卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程在学中に大阪大学人間科学部助手となり、その後大阪教育大学専任講師、助教授、教授を経て、2009年4月より現職。文部科学省「全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議」委員(2007~2019)。

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