日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

教員の働き方改革 現状と学校での取り組み事例

トレンド

特集 教員の知恵袋

 政府が推進する働き方改革の波は、多くの職種に変革をもたらしていますが、教育現場では「教員の働き方改革がなかなか進まない」という声が上がっています。教育の質を向上させるためには、教員の労働環境の改善が不可欠です。本記事では、教員の働き方の現状、そしてなぜ改革が必要なのかについて、詳しく解説します。

教員の働き方の現状

 令和4年に実施された『教員勤務実態調査』の速報値では、前回調査(平成28年度)の結果と比較してすべての職種で在校等時間が減少しました。しかし、依然として長時間勤務の教師が多い状況が続いています。

▽教諭の1週間当たりの在校等時間(令和4年度10・11月)

 ・小学校…全体の64.5%が50時間以上
 ・中学校…全体の77.1%が50時間以上

 教諭の1週間当たりの正規の勤務時間は38時間45分とされていますが、多くの教諭がそれを上回る時間で勤務していることが明らかになりました。

出典:文部科学省『教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(速報値)について

緊急提言と働き方改革の必要性

 教員の業務の長時間化の事態は「極めて深刻」として、中央教育審議会から平成29年に緊急提言がされましたが、令和4年の実態調査でも未だに長時間働く教員が多いことが分かっています。

 教職員の長時間勤務は教育の質の確保や教員自身の健康問題に直結すると考えられるため、中央教育審議会は、「教員が授業や授業準備に集中できる環境を構築するため、校長及び教育委員会に勤務時間を意識した働き方を進めることが必要だ」と提言しています。

具体的な改革策

 学校における働き方改革の取り組みを推進させるために注目するポイントは以下の通りです。

 ・業務改善方針の策定
 ・学校運営の体制見直し
 ・教員業務の軽減や分散
 ・削減できる業務の洗い出し
 ・勤務時間の管理 など

 ここからは改革策の中から、学校単位での取り組みとその効果が期待されるものとして『教員業務の軽減や分散』『勤務時間の管理』2つに焦点を当て解説します。

教員業務の軽減や分散

 教員の勤務の長時間化の主な原因として挙げられるのが、業務の多さです。そこで、各教員が負担する業務量が適切かどうかの見直しを行う必要があると考えられます。

▽教員業務を軽減・分散させるための案

 ・ICTを活用した業務負担の軽減
 ・教員業務支援員の参画
 ・部活動にかかる活動方針の策定
 ・週案や指導案の作成 など

 例えば、学級日誌の管理、宿題の確認、テストの採点といった時間をそれほど要しない業務も、見直しや方法の改善を通じて、年間を通して大幅な時間削減が可能です。

 さらに、副担任や他の教員が担任の業務の一部を引き受けることで、業務を分散させ、個々の教員が過度な長時間労働をすることを防ぐことができます。このように、業務の適切な配分と効率化により、教員の働きやすい環境を整えることが、教育の質の向上にも繋がります。

勤務時間の管理

 業務時間の長時間化のほかにも、持ち帰り残業や時間外労働によって長時間労働が常態化していることが指摘されています。これらの問題を解決し、教員のワークライフバランスを改善するためには、学校ごとに勤務時間を適切に管理する体制を整える必要があります。

▽適切な勤務時間管理の案

 ・校務システムを利用した始業・終業時刻の確認と記録
 ・タイムカード、パソコンの使用時間の記録など、客観的な記録を基礎とする
 ・それらの記録を3年間保存し、必要に応じて分析や評価の材料とする

 これらの措置により、教員の勤務時間が透明化され、過剰な労働を防ぎながら、教育現場の健全な労働環境を実現することができます。

事例紹介

 教員の働き方改革は、何か一つ策を講じれば解決するというものではありません。教育現場である学校が国や教育委員会と連携を取り進めていくことが重要です。

 いまだ、教員業務の長時間化は深刻な課題ではありますが、『教員勤務実態調査』では全国で働き方改革の取り組みの結果が着実に出つつあります。ここからは、教員の働き方改革の一環として取り組まれた実際の事例について紹介します。

ICTを用いた課題解決

 福岡県のある小学校では、ICTの活用により教員間の情報共有が効率化されました。チャットツールの導入により、職員室と教室間のスムーズな連絡が可能となり、授業中断の減少につながりました。さらに、カレンダーツールを利用して予定や行事を共有することで、特別教室や学校設備の利用効率が向上しました。

教員業務支援員の活用

 千葉県のある中学校では、『教員業務支援員』を活用し、教師が生徒への指導や研究に注力できるような体制を作っています。

 教員業務支援員は、教育委員会からの派遣を通じて、教師の業務の支援に従事し負担軽減を図る目的があります。導入するにあたり、教員業務支援員が効果的に働くための、活用の手引きや業務依頼の方法などにも工夫が必要です。

 教員業務支援員によって、教師の抱える業務を軽減し、子どもたちと接する時間や教材研究する時間を確保することで、より質の高い教育が可能になることが期待されています。

持続可能な教育環境へ

 持続可能な教育環境の構築に向けて、教師の労働環境の整備は教育の質を向上させる上で欠かせない要素となっています。この背景のもと、『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法』の一部改正・施行をはじめとする、学校における働き方改革の取り組みが着実に進められています。これらの改革は、教師が健康で充実した職業生活を送りながら、高い教育成果を上げることを目指しています。

 また、教師の働き方改革を成功させるためには、単に労働時間を管理するだけでは不十分です。処遇の改善、指導や運営体制の充実、そして何よりも教師の育成と支援に力を入れることが必要であると考えられます。

 全ての関係者が協力し、教育現場での働き方改革をさらに推進し、教師の処遇改善や職場環境の改善に取り組むことが求められます。

特集 教員の知恵袋

連載