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新成人を送り出すために 「おとなになる」ってなんだ?

8面記事

企画特集

高校生の新鮮な意見を引き出すゲストの池上彰氏

 令和4年4月に民法の改正により成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ2年目を迎えた。日本教育新聞社では、12月1日から1月31日の2か月間、「大人」になることを考える機会として18歳成人オンラインフェアVol.2を特設ウェブサイトにて開催。文部科学省、法務省、消費者庁、金融庁、こども家庭庁、全国高等学校長協会、日本私立中学高等学校連合会、全国都道府県教育委員会連合会、日本PTA全国協議会、全国高等学校PTA連合会、日本私立大学協会が後援した。ここでは、同オンラインフェアのコンテンツを紹介する。

高校教員セッション
過去を振り返り改めて「おとな」を考える

出演者

司会
岩倉高等学校
松本 祐也 教諭

参加者
筑波大学附属坂戸高等学校
橋本 大輝 教諭

開智未来高等学校
廣瀬 和美 教諭

向上高等学校
吉田 菜津美 教諭

 高校教員のリアルな声を届けるべく、学校も担当教科も異なる4名の現役高校教員でセッションを行った。今回の高校教員セッションでは、「『おとな』を実感・自覚した出来事や瞬間」というテーマで、それぞれが自身の過去を振り返った。
 はじめに、出演者が「自分は大人になった」と感じたエピソードを聞くと、橋本教諭は「学生ではない教員としての身分が確立され、経済的にも自立し、はじめて常勤の教員として教壇に立ち、給料が振り込まれたとき」と答えた。続く吉田教諭は「自分一人で家を探し、契約し、家賃を払うことで責任、親元を離れることで自立を感じ、就職を機に一人暮らしをはじめたとき」、松本教諭は「1998年の長野オリンピックの開催時に行われた国際ユースキャンプで、世界各国の同世代の若者と今後の世界について話し合ったときと、教員としてはじめて中学生の前で実際に授業をしたとき」と話した。廣瀬教諭は「就職し、納税をしたとき。結婚を機に親元を離れ、自立したとき。そして出産により命がけで守るべき存在ができ、『大人であらねばいけない』と実感したとき」と語った。
 「18歳成人に対して日々感じていることや疑問」について橋本教諭は、「2022年開催の『18歳成人オンラインフェア』に出演した際、生徒が大人になることに対し不安を感じていることを知り、生徒の感じる『大人への不安』に寄り添う必要があると感じたが、どのように寄り添えば良いか模索中」と答えた。橋本教諭の「不安に感じている生徒への接し方」の答えとして、廣瀬教諭は、「生徒自身が感じる不安について誰に相談したら良いか、選択できるようになることが大人への通り道」と答え、吉田教諭は「何が不安なのかを聞き取り、一緒に調べてみようと促し、調べることの大切さを伝える」とアドバイスした。
 「学校現場で、授業や生徒と向き合う中での疑問点」では、「18歳成人により、教室内に成人を迎えた生徒と迎えていない生徒がいるため、ホームルームなどで、どのような工夫をして話せば良いか模索している」と吉田教諭は答えた。現在高校2年生の担任である橋本教諭は、吉田教諭のような疑問に来年直面するのではないかと感じていると話した上で、「18歳で区切る必要はない。学校を卒業した延長線上に『大人』『社会』がある」と答えた。また、廣瀬教諭は、「成人式の翌日からすぐに大人になれたわけではない」と自身の20歳の頃を振り返りながら「教室内に成年と未成年が混在していても、選挙に行く18歳の友人を見て、17歳の生徒たちが今後、自分たちはどのように投票活動をするのかを考えるなど、教室内で多様性を育むことが大切」と話した。
 最後に松本教諭は「答えがないからこそ、一緒に考えていく時間が必要」と話し、続けて「錯綜しているさまざまな情報を取捨選択し、責任のある生活を送れるような大人を育てていくのも教員の仕事の一つかもしれない。生徒と社会をつなぐ存在である教員自身が学ぶ姿勢をやめないことが大切」と締めくくった。

左から松本教諭、橋本教諭、吉田教諭、廣瀬教諭

特別座談会
政治と向き合いかっこいい「おとな」へ

特別ゲスト
池上 彰 氏

参加者

飛鳥未来高等学校3年生
潮 咲玖 さん

岩倉高等学校2年生
森 鈴花 さん

共立女子中学高等学校2年生
森岡 莉彩 さん

中央大学杉並高等学校2年生
大倉 康平 さん

筑波大学附属坂戸高等学校2年生
山本 明日花 さん

 日本教育新聞社では、昨年5月に高校2年生と3年生を対象に「18歳成人に関する意識調査」を実施。「『大人』について話してみたい有名人」の設問で、多くの高校生がジャーナリストの池上彰氏を挙げた。今回は池上氏を特別ゲストに、高校生と「かっこいい『おとな』になるためには?」というテーマで座談会を行った。
 「学校で政治の話をする?」と池上氏が問いかけ、座談会がスタート。「はい」と答えたのは大倉さんと森さんの2名。大倉さんは「中学生の頃、アベノマスクや10万円の一律給付など当時のコロナ禍の政策について議論したことがある」と話し、池上氏を驚かせた。森さんは、「成人を迎え選挙権が与えられた部活動の先輩から実際に選挙へ行った話を聞き、自分も選挙を少し身近に感じた」と振り返った。
 「いいえ」と答えたのは、潮さん、森岡さん、山本さんの3名。森岡さんは「公共の授業で選挙制度を学んだため興味がないわけではないが、知識が足りないため、自分の意見を持って議論することが難しい」と話した。
 加えて池上氏は「政治ってどんなイメージがある?」と投げかけ、森さんは「自分の住んでいる地域というより、国全体について扱っているイメージ」と答えた。池上氏は、「みんなが使っている公共施設にどのくらい国や都道府県が補助をするのかなども全て政治。みんなの生活は政治と密接に関わっているんだよ」と高校生に語った。
 大倉さんから「他の先進国と比較して日本の投票率が低いのはなぜなのか」という疑問が出ると、潮さんは投票率を上げる一つの方法として「支持したい政党がない場合、『私はどこも支持しません』という意思表明として白紙投票をする。白紙投票という選択肢を普及させるべきだと思う」と提案。潮さんの話を聞き、山本さんは「なぜその政党に興味がなかったのか、白紙投票をした理由や意見を伝えられる機会を設けるとより良い政治につながるのでは」と考えを述べ、「良い意見だね」と池上氏をうならせた。池上氏は「賛同できる候補者がいない場合、全て白紙投票するのではなく『よりましな候補者を選ぶ』ことも大切だね」と付け加えた。
 高校生たちはこの座談会を通して導き出した「なりたいおとな像」について、それぞれ「子ども的な部分を持ち続ける人」(潮さん)、「大変さもありつつ、いろいろな場面で楽しみを感じられる人」(森さん)、「さまざまな分野における知識や教養を持ち、物事の先を読んで説明ができる池上さんのような人」(森岡さん)、「相手と心を通わせられるような人」(大倉さん)、「知識を求め、どんどん成長していける人」(山本さん)と発言した。
 池上氏は最後に「みんなが僕くらいの世代になったときに『あなたたちのおかけで社会がこんなに良くなりました』と若い世代から感謝してもらえるような社会だといいね」と座談会を結んだ。

上段左から森岡さん、森さん
下段左から山本さん、大倉さん、潮さん

大学生プログラム
現役大学生に聞く進路を考えるきっかけ

出演者

ファシリテーター
ヨビノリたくみ 氏

参加者

東京大学4年生
井上 亮 さん

奈良女子大学3年生
内田 小雪 さん

京都産業大学3年生
宮地 秀幸 さん

中央大学3年生
明石 ことみ さん

フェリス女学院大学2年生
星名 弥寿々 さん

法政大学1年生
武藤 ゆか さん

 高校生が進路について考える機会の提供として、大学生6名とゲストを迎えてオンラインで座談会を実施した。今回のゲストは、教育系YouTuberとして多くの若者から支持を集めているヨビノリたくみ氏だ。テーマは「高校と大学の違い」「どうやって進路を決めた?」の2つ。大学も学年も異なる大学生がそれぞれ意見を述べた。
 たくみ氏からの「高校と大学の違い」についての間いかけに、武藤さんは「大学は高校と規模が大きく異なる。同級生でも顔は知っているけど名前は知らないということもよくある」と答え、たくみ氏の共感を得た。 
 続けて、明石さんは「地元に高校が2校しかなかったため高校への進学の際は選択肢が少なかったが、大学への進学の際は数多くの大学から自分で選ぶことができた」と「進路選択」という観点からの発言もあった。
 内田さんは「入学前、大学は『自由』というプラスのイメージを持っていたが、入学してみて自分で考えなくてはいけないことがたくさんあり、自分に全ての責任がのしかかる感覚があった」。井上さんは「学べる科目の幅広さ。英語を使えることが前提の『シェイクスピアを読んでみよう』という授業もあり驚いた」と話した。
 また、宮地さんは「同じ教室に地方から上京している学生が多数いること」と答え、たくみ氏は「大学には、さまざまな地域から人が集まっている。入学式やオリエンテーションで話しかけた友人との関係は長く続くと思う。勇気を持って話しかけると何か変わるので意識してもらえたら嬉しい」と語った。
 次に「どうやって進路を決めた?」というテーマでは参加者それぞれの希望の違いが表れた。武藤さんは「教員免許が取得でき、かつ就職率の高い大学に絞り込んだ」。星名さんは「通学時間を有効活用できないという理由から『家から近い大学』、大人数の中の一人に埋もれたくないという気持ちから『少人数制の大学』を選んだ」と語った。
 内田さんは「『自分のやりたいことができること』『大学がわくわくする場所にあること』を軸に大学を絞った。高校で将来のやりたいことが決まっていなかったが、大学で好きなことを学ぶうちに将来の夢が見えてきた」、明石さんは「地元が大好きなため、高校卒業後は地元の市役所で働くことを決めていたが『地元に貢献したいなら外の世界を知ることも大切』という父からの言葉に心動かされ、東京の大学への進学を決めた」、井上さんは「高校の頃、周囲の大多数が地元関西の国公立大学を目指していたが、周りに流され自分の進路を決めることに疑問を感じ、みんなが目指さない東京大学を第一志望校に選んだ」と話した。
 最後にたくみ氏は、「自分は高校生や大学生に『進路』を含め情報発信している。今回、大学生のみんなの話を聞いて、『こんな選択をする人もいるよ』とこれから進学する人たちに伝えていければ」と締めくくった。

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