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ラーケーションとは?新しい学びと休暇のかたち

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特集 教員の知恵袋

 『ラーケーション』という言葉を聞いたことはありますか?令和5年9月、名古屋市を除く愛知県の公立小中学校、高校、特別支援学校で『ラーケーションの日』がスタートしました。大分県別府市でも公立小中学校を対象に『たびスタ』という名前で同様の取り組みが進められています。今回は、この新しい取り組みの目的や活動例について解説します。

ラーケーションとは

 ラーケーションとは、『学習(ラーニング)』と『休暇(バケーション)』を組み合わせた造語です。平日に『家族や保護者と一緒に校外学習を行うこと』を目的とした休みを取得できる制度として、令和5年9月から愛知県内14市町に導入されました。

 また、愛知県内全54市町のうち名古屋市を除く53市町(計1003校)が令和6年1月までの実施を予定しています。

ラーケーションの内容

 ラーケーションでは、事前に届けを申請した平日に学校を休み保護者や家族と一緒に校外(家庭や地域)学習を行います。保護者等の休暇に合わせて、年に3日まで『ラーケーションの日』を取得できます。この期間中、子どもが保護者等とともに校外で体験や探究の学び・活動を、自ら考え、企画し、実行する校外学習活動を行います。

 ラーケーションの日として申請した日は、学校に登校しなくても欠席とはならず、『出席停止・忌引等』と同じ扱いがされます。

ラーケーションの目的

 愛知県は『「休み方改革」プロジェクト』の一環として『ラーケーションの日』を導入しました。ここからは、ラーケーションの日を実施するにあたって、どのような目的があるのかを、愛知県の例に基づいて解説していきます。

1.保護者の休み方改革における側面

 ラーケーションは、保護者にとって新たな休息の形を提供し、家族との絆を深める機会を増やすことが目的のひとつとされます。

 愛知県が発行した資料『愛知県「休み方改革」プロジェクトの概要』や厚生労働省の『令和4年就労条件総合調査の概況』によると、有業者のうち土曜に働いている人の割合は45.5%、日曜に働いている人の割合は30.4%、有給休暇の取得率は58.3%でした。これにより、休みの日に子どもと一緒に過ごすことが難しい家庭が少なくないことが分かります。

 子どものラーケーションの日に合わせて平日に有給休暇を取得する保護者が増えることで、愛知県全体のワーク・ライフ・バランスの向上が期待されています。

出典:愛知県『愛知県「休み方改革」プロジェクトの概要』/厚生労働省『令和4年就労条件総合調査の概況

2.子どもたちの学習機会における側面

 家族で校外学習活動をすることで、子どもたちが普段とは異なる環境で経験や学びを得る機会を作ることも、目的のひとつです。自然と触れ合ったり、芸術に接したり、地元の植物や動物を研究することなどを通して、多様な体験ができます。

 また、ラーケーションの日の計画や訪問先を子どもたち自ら考えることにより、子どもたちの主体性や自主性を伸ばすことが期待されています。

ラーケーションの活動例

 ラーケーションを行う条件は、『保護者と一緒に経験や探究の学びや活動を行う』ことです。ラーケーションには決められた活動は無く、子どもの興味や得意な分野などに合わせて子どもと保護者で一緒に決めることができます。

▽活動例

 ・史跡や博物館などへ訪問し、ガイドさんや学芸員から詳しい話を聞き学ぶ
 ・公園の植物を調べたり、農業体験を通じて食の大切さを学んだりすることで、自然環境への理解を深める
 ・登山やハイキング、キャンプなど自然に触れることで五感を使った体験をする
 ・美術、音楽、演劇などに触れ感想を語り合う など

 また、どこかへ出かけなくてもラーケーションは可能です。家の中で実験や体験することもラーケーションの一環として認められます。

ラーケーションで生じる課題

 ラーケーションでの学校休暇は、生徒にとって新たな学習機会を提供する一方で、いくつかの課題も生じています。学校を休むことにより、学習への遅れが懸念されるため、家庭での自習によってこの遅れを補う必要があります。

 また、経済的な事情や保護者の職業によっては、ラーケーションの日を取得することが難しい家庭も存在します。

 さらに、生徒がラーケーションの日を届け出ることで教員には新たな手続きの負担が発生します。それと同時に、教員自身がラーケーションの日を取得することが難しいという懸念もあります。

 このような教員の負担を軽減するために、愛知県教育委員会では校務支援員の配置を進めています。これらの課題を解消するには、学校だけではなく、保護者の理解と協力も必要です。

『ラーケーションの日』から模索する新しい休み方

 愛知県の事例から分かるように、『ラーケーションの日』から生まれる新しい学びの機会が子どもたちに提供されています。ラーケーションを行うことは、子どもたちが知識の幅を広げると同時に、家族との絆を深める貴重な機会であると考えられます。

 多様な働き方がある現代において、ラーケーションは子どもと大人が一緒に過ごすことのできる『新しい休暇のかたち』ともいえます。今後、この取り組みが国の働き方改革にどのような影響を与え、全国へどのように広がっていくかに注目が集まります。

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