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危機の時代に立ち向かう「共同」の教育 「表現」と「方法としての政治」で生きる場を切り拓く

12面記事

書評

佐貫 浩 著
民主主義で社会を創るための教育へ

 日々のニュースは戦争、震災、難民、貧困、感染症拡大、異常気象を報じており、われわれはそうした「危機の時代」を生きている。だが、一方でそうした危機をひとごとのようにして、目の前の細事に追われ日常を過ごしている。
 学校の教室でも、こうした社会の危機とは乖離・分断され、脱政治化された学習内容について「正解知」を求める過熱競争が新自由主義の支配戦略を背景に展開されている。
 このような深刻な状況に対し著者は、民主主義(方法としての政治)を介して社会の力として組織され、社会を創り、世界を創り出していくことのできる「合意知」が機能する仕組みと学びの質を回復することを提唱する。これが「共同」の教育ということであろう。
 とりわけ本書では政策が推進する「資質・能力」(コンピテンシー)論に鋭く切り込み、それが競争を生み出す統治技術と人間の生の全体を統治の対象とする「生政治」(ミシェル・フーコー)となることを憂慮するとともに、「学力と人格の結合」論など戦後教育学の蓄積を十分に顧みない教育学の現状に対しても批判の矛先を向けている。
 分断・対立した現代社会、脱政治化された公教育、そしてこうした事態に手をこまねく教育学に対する碩学の憂いに対し、後進の一人としてその責を果たせない忸怩たる思いが募った。著者の願いを少しでも受け止めたい。
(2530円 旬報社)
(元兼 正浩・九州大学大学院教授)

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