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『エミール』を読む

13面記事

書評

苫野 一徳 著
現代的テーマと関連付け 平易に解説

 ルソーの『エミール』といえば、言わずと知れた教育学の古典であるが、本書は新進気鋭の教育哲学者・苫野一徳氏がこの名著のエッセンスをかつてないほど平易に、かつコンパクトに描き出し、『エミール』の現代的意義を力強く示した意欲作である。本書の独自性は、徹頭徹尾、著者が「現実の教育にとことん役立てる」ことを目指して『エミール』と対話を重ねている点にある。
 本書を読み進めていく中で、読者は『エミール』と現代の教育を巡る諸テーマの間を、時空を超えて何度も行き来することになるだろう。例えば、本書では長野県伊那市立伊那小学校など、優れた教育実践が参照され、『エミール』に内在している”教育の精髄”の生きた姿が読者の前に差し出される。具体例が対置されることで、「消極教育」など、ルソーが提示した抽象的な概念に命が吹き込まれるのだ。また、性教育や道徳教育、競争の弊害など、現代的なテーマが多岐にわたって取り上げられており、『エミール』のエッセンスをつかみ取ることで、それらの議論が鮮やかに整理されてゆく。教育に関するアクチュアルなテーマと『エミール』を合わせ鏡にして、両者を複眼的に捉えることにより、本書を手にした読者は教育の今を読み解き、未来を照らすための道しるべを獲得することができるのである。教育が転換期を迎えるこの時代にこそ、ぜひ一読をお勧めしたい。
(2310円 岩波書店)
(井藤 元・東京理科大学教授)

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