イマージョン教育とは?注目される外国語教育法とその課題
トレンド急速に進展するグローバル化のなかで、日本における英語教育の充実と強化がますます重要な課題となっています。外国語によるコミュニケーション能力の向上が不可欠である現代、英語教育の一つの方法として注目されているのが「イマージョン教育」です。
今回は、イマージョン教育の特徴とそのメリット、これからの課題について詳しく解説します。
イマージョン教育とは
初中等教育における外国語教育法の一つであるイマージョン教育とは、母語と外国語の両方の語学力を伸ばすために、目標言語(イマージョンランゲージ)で教科を学ぶことを指します。
学校で外国語を学習する場合、教科科目として授業を行うことが一般的です。一方、イマージョン教育では、外国語習得を教科として学習するのではなく、“教科学習と外国語両方の同時習得を促す学習”を前提としています。
例えば、目標言語が英語の場合、算数や理科などのさまざまな教科の授業を英語で行います。人為的に外国語環境を作り、そこに子どもたちを“浸す(immerse:イマース)”ことで母国語と同レベルの目標言語を身につけることが目的です。
イマージョン教育の特徴
イマージョン教育の最大の特徴は目標言語で教科学習を学ぶことです。イマージョン教育の実践には、子どもたちを目標言語に浸す長さや学習内容など、各学校がそれぞれのニーズに従ってプログラムを決める必要があります。実施形態にはさまざまなバリエーションが存在しますが、主な特徴として以下が挙げられます。
・目標言語で教科学習を学ぶ
・地域の教育カリキュラムに準ずる
・母語の使用を認め、目標言語と双方を使い学びを得ることを目指す
・目標言語の接触は学校内だけである
・入学時の子どもの目標言語のレベルはほぼ同等である
・教師は目標言語と子どもの主要言語の双方を習熟している
・教室環境は地域の学校文化に準ずる
イマージョン教育は、人為的に作られた外国語環境で母語使用の自由を持ちながら、目標言語での教科学習が行われるプログラムといえます。
イマージョン教育の歴史
イマージョン教育は、1965年にカナダで始まりました。カナダは公用語が英仏2ヶ国語であることから、イマージョン教育の一つである「一方向性イマージョンプログラム」が始まりました。一方向性イマージョンプログラムでは、子どもたちが“初めて触れる外国語”を目標言語として、主要言語と同時に言語学習を始めます。
1970年代には、アメリカの公立学校でもイマージョン教育が導入され、アメリカ社会のニーズに合わせた内容へと変化しました。主要言語(例:英語)を母語とする子どもと目標言語(例:スペイン語)を母語とする子どもが約50%ずつの割合で学習に参加し、お互いの言語を学び合う「双方向性イマージョンプログラム」が発展しました。
出典:文化庁『日本語教育研究協議会 第4分科会』/国立教育政策研究所『アメリカ合衆国におけるイマージョン教育─2言語併用教育の可能性を考える─』
イマージョン教育のメリット
外国語の学習においてイマージョン教育を行うことで、さまざまなメリットが期待できます。主な例として、以下が挙げられます。
・外国語(目標言語)の習得
・地域学区の規定する教科学習の達成
・異文化受容姿勢の育成
・母語の発達
目標言語で教科学習を行うことで、外国語と各教科の両方の学力習得を同時に達成することが期待できます。そのほか、多言語・多文化の社会への過渡期にイマージョン教育を行うことで、自分と異なる言語や文化、価値観を受けられる姿勢の育成にも期待が高まっています。
イマージョン教育を受けられる学校
現在、日本でイマージョン教育を受けられる学校は一部に限られています。独自にイマージョン教育を行っている学校として、以下が挙げられます。
▽イマージョン教育実施校
・静岡県 加藤学園(幼稚園から高等学校まで)
・群馬県 ぐんま国際アカデミー
・奈良県 西大和学園(中学校・高等学校)
これらの学校では、日本語を母語とする子どもたちを対象とした「一方向イマージョンプログラム」を実施しています。しかし、全国的にはまだ普及していないのが現状です。
出典:文部科学省『教育課程特例校制度』『諸外国における外国語教育の実施状況調査結果(概要)』
イマージョン教育の課題
今後、イマージョン教育を発展させるためには、さまざまな課題を解決する必要があります。その一つとして挙げられるのが“イマージョン教育の周知と理解”です。初等教育から外国語教育を行うイマージョン教育に対して、「母語を学ぶのが先ではないか」といった見解もあります。このような見解に対して、目標言語だけでなく母語を発展させることがイマージョン教育の目的の一つであることを理解してもらう必要があります。
そのほかにも、外国語で教科学習を行うためのカリキュラムの策定や、適切な教材の準備、目標言語のネイティブ教師の確保・養成などが挙げられます。これらの課題を解決するためには、イマージョン教育を既に実践している学校や、他国のイマージョン教育の成功事例を参考に、地域や学校の特性に合わせたアプローチを検討することが重要であると考えられます。
外国語で学ぶイマージョン教育
イマージョン教育を通して言語習得をすることは“特別な技術を身につけること”ではなく、“ことばの教育を行うこと”として捉えることが重要です。
外国語でのコミュニケーション能力の向上という大きな課題に対し、今後イマージョン教育を取り入れることが有効なのではないかという意見もあります。イマージョン教育は、新たな教育の基準となる可能性を秘めた外国語教育法になるのではないでしょうか。