避難所のライフラインを維持するLPガスの活用
15面記事防災減災対応システムBOGETS(寝屋川市立中学校)
都市ガスをバックアップできる「防災減災対応システムBOGETS」
停電時にも空調や電気が使える「災害対応型バルクシステム」
避難所の防災機能を強化する手段として、劣化せず長期保管が可能なLPガスを備蓄してライフラインを維持する対策が注目されている。ここでは、I・T・O(株)が提案する「防災減災対応システムBOGETS」(都市ガスエリア向け)と「災害対応型バルクシステム」(LPガスエリア向け)のそれぞれの強みを、自治体の導入事例と併せて紹介する。
(左)災害対応型バルクシステム(石ヶ瀬小学校)と(右)停電対応型GHP(大府北中学校)
都市ガスエリアには「BOGETS(ボーゲッツ)」を
都市ガスを利用している避難所では、災害によってガス供給が絶たれた場合に備蓄したLPガスを都市ガスに変換し、ガス空調の稼働を可能にする「BOGETS」が適している。以前にも同様のガス変換装置はあったが、専門業者でないと操作できないことが災害時における迅速な復旧のネックになっていた。本システムはタッチパネルの解説や音声ガイドにより、誰でも安全かつ簡単に操作ができる「New PA」を備え、非常用ガス発電機や停電対応型GHPと組み合わせて電気もバックアップできるのが特徴だ。
この「BOGETS」を、避難所となる体育館に停電対応型GHPと合わせて導入したのが、大阪府寝屋川市や東京都足立区等多くの自治体である。都市ガス供給が途絶した場合でも72時間の空調機運転と電力を賄うことで、避難所生活での心身的負担による災害関連死を防ぐことが目的。都市ガスを使用することで平時のランニングコスト低減も考慮している。
「避難所生活ではさまざまなストレスが生じます。健康管理のためには避難所で空調が使えることは大変重要です。高齢者や乳幼児、妊婦の方などの負担軽減を考え、空調の導入を決めました。燃料となるLPガス容器は、体育館脇にLPガス容器庫を設けて16本を備蓄。都市ガスが復旧するまでのおよそ3~4日間を賄える想定です。今回、災害時のライフライン維持に対応したシステムを導入したことによって、学校内の防災意識をたかめていただければと考えています。」と寝屋川市教育委員会は説明する。寝屋川市は防災減災対応システムBOGETSで「ジャパン・レジリエンス・アワード2022(強靱化大賞)」の最優秀賞も受賞している。
LPガスエリアには「災害対応型バルクシステム」を
災害時、停電が発生しても空調稼働を維持すること、照明や携帯電話などの通信機器の充電用バックアップ電源確保が不可欠である。現在、教室空調で主流となっているEHPは消費電力量が多く、停電時に稼働させるための電源確保が難しい。また、バックアップ電源として主流となっている非常用ディーゼル発電機は、取り扱いに資格が必要であり、日常の燃料の管理や災害時の燃料確保が困難である。その点、自立型電源を備えた停電対応型GHPは、停電した場合も備蓄したLPガスを使ってエンジンを動かせるため、ガスの供給が続く限り空調運転や発電を維持できる長所を持つ。
したがって、LPガスエリアにおける避難所では、LPガス備蓄と停電対応型GHPをセットにした「災害対応型バルクシステム」を整備することが最適といえる。このシステムは多くの自治体に導入されており、EHPよりもランニングコストが抑えられるのはもちろん、整備費用の2分の1を賄える経済産業省の補助金を活用することで導入費用も抑えられる。
愛知県大府市が導入した「災害対応型バルクシステム」は、バルク容量の半分の量でGHPを3日間稼働できる容量を備えており、停電時は照明や非常用コンセントとしても使用できる。加えて、被災時は愛知県のLPガス協会と優先的に追加供給を受ける防災協定も結んでおり、長期的な避難所運営の対応も可能となる。災害時のエネルギー供給には、このようにリスクを分散させることが大切になる。
国が定めるエネルギー基本計画の中で、LPガスは「災害時のエネルギー供給の最後の砦」として位置づけられ、過去の大規模震災でもライフラインの維持に貢献したことから、国も補助金を交付して燃料備蓄を後押ししている。一方、都市ガスは風水害に強い性質を持ち、導管供給のため配管が損傷しない限り、ガス供給を継続し続けることができる。今後もI・T・O(株)では、こうした双方の特徴やランニングコストも踏まえ、各自治体におけるレジリエンス強化に取り組んでいく意向だ。
能登半島地震での災害支援活動での気づき
能登半島地震で断水が続いていた七尾市立小丸山小学校では、救援物資により飲料水に困ることはなかったが、風呂やトイレ、洗濯などに使う生活用水を欠く不便に陥った。そこで、I・T・O(株)とNPO法人「LPガス災害対応コンソーシアム」とで結成した災害支援チームが、給水、給湯、暖房の支援を行い、避難者の生活環境を改善することに貢献した。
具体的には、非常用生活用水浄化装置を設置し、学校のプール水を浄化して避難所に設置した仮設給水所および簡易シャワー・洗濯機へ供給。簡易LPガス設備を設置し、LPガス給湯器で温水を提供したほか、ガス式乾燥機を稼働させた。また、シャワー後のヒートショック対策として軽くて持ち運びが容易なLPガスコンポジット容器とガスストーブを用意し暖を取れるようにした。小丸山小学校には体育館に空調設備は整備されておらず、真冬の体育館は底冷えし、非常に厳しい環境での避難所生活を余儀なくされていた。避難所では空調整備のほか、エネルギーインフラであるガス・電気・水のバックアップが重要となる。