日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

もっと深く、もっと楽しい理科へ!理科本来の魅力を取り戻すためには

10面記事

企画特集

「観察・実験」×ICT活用が理科教育のトレンドに

 座学を飛び越えて、自然や科学の「なぜ?」を解き明かす理科は、これからの予測困難な時代を生き抜く力を育むためのカギを握る教科となっている。しかし、自然に触れる機会が少なくなり、受験のための勉強が浸透することによって、面白さを知る前に理科嫌いになってしまう子どもたちが増えている。ここでは、もう一度、理科本来の魅力を取り戻すために何が必要かについて探るほか、その学びに不可欠な最新の理科機器教材&ICTツールを紹介する。

理科への興味関心をなくす子どもたち

 理科は、どの学校でも実験機材等を揃えた専用の理科室が整備されているように、座学にプラスして直接的な体験を行い、身近な自然の法則について知り、科学的な素養を身に付けることを重んじてきた教科である。また、屋外に出て自然の植物や虫たちに触れ、太陽や月、星などを観察する、風や雲の流れなど気候の変化を記録するといった課外活動も盛んに行われてきた歴史がある。
 だが、受験のための暗記やカリキュラムの多様化に時間が割かれ、自然に触れたり、実験に費やしたりする時間が減ったことで、子どもたちが理科に対する興味や関心を失い、理科離れや理系への進学を避ける傾向が顕著になっている。したがって、国民全体の科学リテラシーの低下が進み、社会への影響が危惧されるとともに、将来の科学者や技術者が不足し、わが国のイノベーションが停滞する恐れが高まっている。

実感を伴った理解に向けて「観察・実験」機会を拡充

 こうしたことから、文科省は新学習指導要領において、実感を伴った理解を導く「観察・実験」機会の拡充を提唱し、理科への興味関心を取り戻そうと動き出している。すなわち、子どもたちが自ら手を動かし、現象を観察することで理科への興味を深める、日常生活で起こる現象を題材に、理科と生活の結びつきを実感させることを目指している。
 また、その上では教員にも専門的な知識・技術が必要になるため、小学校高学年における理科専科教員の加配(中学年へも拡大する予定)、最新の教育方法や教材を活用した教員研修も推進している。
 それ以外にも、小中連携=小中学校で連携し、学習内容のつながりを意識したカリキュラムを構成する。理科部活動の活性化=実験発表会やコンテストへの参加を促し、生徒の学習意欲を高める。外部講師による出前授業=大学教授や研究者、民間企業による出前授業などを招き、専門的な知識や理科の楽しさに触れる機会を提供する。理科実験教室=放課後や休日に、小中学生向けの理科実験教室を開催する。科学館との連携=科学館の展示やプログラムを活用し、学習内容を深める活動なども行われるようになっている。

将来を担うデジタル人材の育成を

 もう一つ、理系への進学が減っている問題点としては、成長分野であるデジタル人材の不足が挙げられる。情報・デジタル技術の急速な発展により、その担い手を育成することは国際競争力を維持するためには不可欠だ。このため、政府は⼤学教育段階でのデジタル・理数分野への学部転換や、女性の理工系進学・就職を増やす政策を進めている。加えて、⾼校段階でも将来の科学技術人材を育成するSSH校に加え、未来のデジタル人材を育成するための新たな施策として、ハイスペックな環境整備等に100億円を投じる「DXハイスクール事業」をスタートさせた。
 さらに、その土台づくりとしては、初等中等教育段階から自然や科学に関する興味関心を植え付け、課題解決につなげる論理的思考力やITスキルを身に付けていくことが大事になる。それゆえ、小中学校における理科の学習では「観察・実験」の機会を多く取り入れ、そこで得たデータや結果を「ICT」を使って科学的に分析・考察し、自ら課題解決する力を育むことが求められている。

ICTを活用して、楽しく学びを深める

 理科の観察や実験で得られたデータや結果は、ICTを使うことでさらに深く、楽しく学ぶことができる。具体的には、次のような学び方が考えられる。
 1つ目は、データの可視化と分析だ。グラフ作成=ExcelやGoogleスプレッドシートなどを使って、実験データからグラフを作成。グラフを見ることで、データの傾向や変化が視覚的に捉えやすくなり、より深い考察が可能になる。データの比較=複数の条件での実験結果を比較し、表やグラフにまとめることで、違いや共通点を明確にし、考察を深めることができる。シミュレーション=ICTを活用したシミュレーションソフトを使うことで、実験条件を自由に設定し、結果を予測したり、実験結果との比較を行ったりすることができる。
 2つ目は、情報の収集と共有が容易になること。インターネット検索=実験に関する情報をインターネットで検索し、より詳しい知識を得ることができる。動画視聴=実験の解説動画や自然現象の動画を見ることで、理解を深めることができる。プレゼンテーション=実験結果をまとめ、スライドや動画を使ってクラスの仲間に発表することで、自分の考えを整理する力を付けるとともに、コミュニケーション能力が向上する。グループウェアの活用=クラウド上で他の児童生徒や教員とつながり、意見&情報交換をすることで新たな気づきや発見を得ることができる。
 3つ目は、探究や創造的な活動へと発展できることだ。動画作成=実験の様子や結果を動画にまとめ、解説を加えることで、より分かりやすく伝えることができる。プログラミング=プログラミングソフトなどを使って、データ分析やシミュレーションを行うことで、コンピュータサイエンスの基礎を学びながら、理科の学習を深めることができる。また、実験装置や観察対象を3Dモデルで作成し、立体的な理解を深めるといった高度な学び方も考えられる。

「観察・実験」の機会を増やし、理科への興味関心を取り戻す

理科機器・教材のデジタル化も進んでいる

 例えば、植物の成長観察では、植物の成長を写真に撮り、その変化をタイムラプス動画にする。各植物の成長データを表やグラフにまとめて比較する。環境条件を変えた場合の植物の成長をシミュレーションして予測する。電流と磁場の関係の場面では、コイルに電流を流したときの磁場の強さを計測し、グラフを作成したり、異なるコイルや電流値での実験結果を比較したりする。シミュレーションソフトを使って、磁場の様子を可視化するなどだ。
 すなわち、理科の「観察・実験」にICT活用を加えることで、抽象的な概念をより理解しやすくなるとともに、大量のデータを効率的に分析し、より深い考察が可能になる。また、情報の共有が進むことは、気づきや課題解決への近道となり、学習意欲を引き出し、自分の興味のある分野への関心を広めることにつながる。
 さらにいえば、理科では実体験を通した検証や失敗の積み重ねが学習理解を深めるために重要になるが、ICTにはこうしたトライ&エラーが限られた時間内でも効率的に可能になる魅力がある。
 近年では、学習者用端末にUSBやWi―Fi経由でつなげられるデジタル顕微鏡や、気圧・気温・湿度が測れる実験用センサー、電圧・電流計測定器、デジタル百葉箱も登場しており、理科機器のデジタル化が進んでいる。また、インターネット上には無料で使える理科系アプリも数多く揃っており、現在英語で先行導入されている「学習者用デジタル教科書・教材」が理科でも普及していけば、ICT活用の敷居も低くなるはずだ。

STEAM型理科教育で子どもの可能性を引き出す

理科教育の改革は、将来のデジタル人材の育成に直結する

 もう一つ、理科はこれからの時代に求められる、社会課題を解決し、新しい価値を創造できる人材を育成していくための教科としても、その役割がより一層重要になっている。こうした中で期待されているのが、STEAM型の理科教育だ。従来の理科が知識の習得を重視していたのに対し、知識を応用し、問題を解決する資質能力を育成することに重点を置くとともに、教科の枠を超えて総合的な視点から物事を捉えることを目指す教育手法となる。
 具体的な取り組み例としては、気候変動やエネルギー問題、人工知能、多様性理解など社会的な課題をテーマに、科学的な探究活動を行う。センサーやロボットなどプログラミングを活用した実験を行い、データを収集・分析することで現象をより深く理解する。設計図を作成し、3Dプリンターで実物を作成するものづくりや、科学的な現象を題材にしたアート作品を作成し、創造性を表現するといった活動が挙げられる。
 このような活動を通し、子どもたちの可能性を最大限に引き出し、将来の社会を担う人材を育成することが目的となる。それだけに、STEAM型の教育は学校内だけの活動でとどまるのではなく、大学機関や民間企業等と連携した学習プロジェクトも多くなっている。
 自然や科学の「なぜ?」を解き明かす理科は、社会や身の回りの生活で起きている事象と関連付けたり、理系や文系の枠を超えた学びを取り入れたりすることで、子どもたちの目を見開くことができる。つまり、理科を学ぶ楽しさや、将来、社会で役立つ学びとしての意義を感じてもらうこと、それが理科本来の魅力を取り戻すことにつながるのだ。

企画特集

連載