中高生から考える死刑制度 死に値する罪ってなに?
16面記事
佐藤 大介 著
人の生命奪う是非 問い掛け
昨年、静岡地方裁判所は袴田事件の再審で、袴田巌氏に対し無罪判決を言い渡した。この事件を通じて、改めて、冤罪で死刑が執行される可能性があることへの懸念が高まった。では、そもそも「人の生命を奪うというきわめて厳しい刑罰が、なぜ存在しているのか」「重い罪を犯した人は、基本的人権の核である生命を奪われてもいいのか」。本書は読者に対し、死刑制度を巡って生じる数々の根本的な問いを投げ掛ける。著者は、長年にわたり死刑制度を取材し、「ルポ 死刑」「ドキュメント 死刑に直面する人たち」などの著書を通じてその問題点を指摘してきた共同通信社編集委員兼論説委員の佐藤大介氏である。
死刑とは何か、死刑の歴史、世界の潮流、死刑囚の日常、世論調査の問題点など、取り上げられるトピックは多岐にわたっており、死刑制度を考える上で欠かすことのできない「被害者感情」についても丁寧に論じられている。主なターゲットである中高生が死刑制度についてじっくりと立ち止まって考えられるよう、本書では客観的なデータや資料が提示されているが、著者は一貫して「あなたはどう考えるか」と読者に問い掛ける。死刑制度の是非は、中学の社会科や高校の公共の授業などでも取り上げられる重要テーマである。本書を活用することで、表層的理解を避け、議論の質を深めることができるだろう。
(1980円 かもがわ出版)
(井藤 元・東京理科大学教授)