アントレプレナーシップ教育とは?注目されている背景と現状、今後の取り組みを紹介
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現代社会では、技術革新や社会の急速な変化に対応するために、自ら考え行動する力が求められています。
教育現場でも多様な価値観を認め合い、課題を乗り越えていくためには、新たな価値を創造する姿勢が重要であるとして、「アントレプレナーシップ教育」への注目が高まっています。現在は、主に大学を中心とした取り組みが展開され、環境整備や課題に関する議論が深められている状況です。
アントレプレナーシップ教育とは
「アントレプレナーシップ(起業家精神)」とは、さまざまな困難や変化に対し、与えられた環境のみならず自ら枠を超えて行動を起こし、新たな価値を生み出していく姿勢を指します。
これを踏まえた「アントレプレナーシップ教育(以下、アントレ教育)」では、自ら社会課題を見つけ、その解決に挑戦したり、他者と協働して解決策を探るための知識・能力・態度を身につけることを目的としています。起業家を育成するためだけのビジネス教育とは異なるものです。
アントレプレナーシップは、多様な価値観を尊重し、ウェルビーイング(Well-being)を実現する社会を築くうえで重要な精神です。社会経済へのイノベーションが起こり新たな価値が創出されることで、個人の関心と価値創造がリンクし、変化の中でも自分らしく生きるための手がかりとなることが期待できます。
出典:文部科学省『全国アントレプレナーシップ人材育成プログラム』『アントレプレナーシップ教育の現状について』
アントレ教育が注目されている背景
AI技術やデジタルツールの進展など急速に変化する社会では、多様な困難や変化に対して自ら枠を超えて行動し、新たな価値を生み出すアントレプレナーシップが必要とされています。AIやロボットが仕事の一部を代替する時代においてどのように生き、行動するかを自ら考え、そのための実践力を習得することがこれまで以上に求められています。
アントレプレナーシップの革新的なマインドセットは、テクノロジーには習熟できない新たな領域を切り開くものとして、国家にとっても重要な要素といえます。
一方で、日本はアントレプレナーシップに関する国際的な指標において、他国に比べて低い水準にとどまっていることが明らかになっています。
▽日本のアントレプレナーシップに関するランキング(調査数:137か国)
・G7主要国中 6位
・アジア諸国中 6位
現在、大学でアントレ教育を受講している学生は、全体の約1%にとどまっており、その普及は優先すべき課題といえます。
出典:文部科学省『全国アントレプレナーシップ人材育成プログラム』『アントレプレナーシップ教育の現状について』
アントレ教育で身につく能力と目指す人材
アントレ教育を通じて、急激な社会環境の変化を受け入れ、新たな価値を生み出していく精神を備えた人材の創出を目指しています。
▽アントレ教育を通じて習得できること
・社会に存在する課題を発見する力や共感力
意識醸成:不確実性の高い環境下でも未来に向けて行動を起こすためのマインドを養う
・未来創造や課題解決のために必要なベーシックスキル
コンピテンシーの形成:実践へのチャレンジ精神を身につける
・事業を進めるために必要な専門知識の習得・実践経験・課題解決能力
社会実践:スタートアップやスモールビジネスといった機会を提供する
出典:文部科学省『全国アントレプレナーシップ人材育成プログラム』『令和4年度全国アントレプレナーシップ醸成促進に向けた調査分析等業務報告書』
アントレ教育拡大に向けての取り組みと現状
アントレプレナーシップを育むには、自律的かつ効果的にアントレ教育プログラムを続けることが重要です。文部科学省では、拡大に向けての取り組み内容の整備や検討が進められています。
促進されている取り組み内容
文部科学省による次世代アントレプレナー育成事業「EDGE-NEXT」や「スタートアップ・エコシステム形成支援」では、自治体・産業界と連携し、大学等における実践的なアントレ教育の推進が図られています。
アントレ教育が提供されていない地域の学生には、受講機会の提供、教育効果の検証手法の整備、情報収集・発信を行うプラットフォームの運用などが進められています。
全国の大学等で、希望するすべての学生がアントレ教育を受けられる環境を実現するための検討・整備が進められている状況です。
出典:文部科学省『全国アントレプレナーシップ人材育成プログラム』『次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)』
アントレ教育の現状
令和4年度調査によるアントレ教育の取り組み状況は以下の通りです。
▽現状の取り組み状況
・アントレ教育の受講率…3.2%(97,194名)
・アントレ教育実施大学率…33%(289校)
・正課科目の開講…220校
・社会実践・研究促進プログラムの整備…89校
・民間や他大学等外部機関との連携…227校
出典:文部科学省『令和4年度全国アントレプレナーシップ醸成促進に向けた調査分析等業務報告書』
現状から考えられる課題と今後の取り組み方針
令和4年の取り組み状況調査の結果から、社会全体からのアントレ教育の重要性・必要性の理解が不足していることが分かります。
▽アントレ教育における課題
・学生への情報発信が不十分
・大学の協力体制が整っていない
・アントレ教育の体系的なプログラムの開発や運営、予算獲得が不十分
・指導できる人材の育成不足・実務家の採用不足
・自治体・スタートアップ支援機関・エコシステムのコミュニティなどとの連携が不足
・教育の成果をどう設計・測定し、成果を生み出す仕組みを構築するかに関する事例や研究が十分ではない など
これらの課題を踏まえ、アントレ教育の普及・発展のための議論や環境整備に取り組む必要があります。
▽今後取り組むべき事項
・アントレ教育全体像の整理に基づくガイドの作成
・全国的なプログラムを通じてアントレ教育の指標を検証・実証
・整備した指標に基づく改善と研究の推進
出典:文部科学省『令和4年度全国アントレプレナーシップ醸成促進に向けた調査分析等業務報告書』
まとめ
アントレ教育は、急激に変化する現代社会において、新たな価値を創造し、課題解決に挑戦できる人材を育成するための重要な取り組みです。
一方で、日本における受講率や導入率は低く、教育機関や社会全体における理解や体制整備は十分とはいえません。今後は、教育プログラムの体系化、指導人材の育成、地域・産業界との連携強化を通じて、教育環境の拡充と実効性の向上が求められます。