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学校施設の整備予算を拡充~文科省「令和8年度概算要求」から~

12面記事

施設特集

新時代の学びに対応した教育環境向上

 文科省が8月末に発表した「令和8年度概算要求」では、新しい時代の学びを⽀える安全・安⼼な教育環境の実現に向けて、学校施設の整備に関する予算が大幅に拡充された。
 公立学校には2066億円(前年度比約3倍)、私立学校には351億円(前年度比約4倍)を計上し、国立大学・高専等にも771億円が充てられるなど、施設整備関連予算は総額で3188億円に達する。この予算拡充は、単なる施設の老朽化対策にとどまらず、文科省が描く教育の未来像と深く結びついている。
 まず注目すべきは、1人1台端末の更新や校務DXの加速に169億円を計上していることだ。これに伴い、学校施設も従来の「教室中心型」からICT活用を前提とした「多機能・柔軟型」へと再設計される必要がある。予算拡充は、こうした施設の再構築を後押しするものであり、教育の質的転換を支える基盤整備と位置づけられる。

学校施設のZEB化やバリアフリー化の推進

 次に、文科省が掲げる「質の高い公教育の再生」という理念との連動が挙げられる。中学校における35人学級の実現や小学校教科担任制の推進など、教育内容の充実に向けた施策が進められる中で、それを支える施設環境の整備は不可欠だ。少人数学級の導入により、教室数の増加や学習空間の再編が求められ、教科担任制の導入に際しては、専門性を活かせる設備や教材保管スペースの確保が必要となる。
 公立学校の整備では、⻑寿命化を図る⽼朽化対策、バリアフリー化、特別⽀援学校の整備、他施設との複合化・集約化も進めていく必要がある。併せて、脱炭素化の推進となる学校施設のZEB化(⾼断熱化、LED照明、⾼効率空調、太陽光発電等)や、⽊材利⽤の促進も欠かせない。この中では、⼤規模改造(特別防犯対策)事業の令和10年度までの延長や、標準仕様の⾒直しや物価変動の反映による単価改定(対前年度⽐+16・6%増)も盛り込む。

私立学校への支援も強化

 私立学校への支援強化も重要な方向性の一つ。私立学校施設整備予算は前年度比約4倍に達し、これまで以上に手厚い支援が見られる。⾮構造部材や構造体の耐震対策、避難所機能を強化する空調整備などの防災機能強化を重点⽀援を図るほか、耐震化・施設の建替えなどの融資事業を実施事業規模600億円で実施する。
 また、ICT環境やDXの推進や教育研究基盤の向上、老朽校舎の改修などを通じて、教育の安全性・快適性を高める方針を示している。

国土強靱化に向けて「事項要求」も

 さらに、施設整備の観点からは防災・減災機能の強化も見逃せない。文科省は、耐震化・浸水対策・非常電源の確保など、災害時にも機能する施設整備を推進しており、予算拡充は不可欠だ。
 加えて、施設整備の予算拡充は、教育の地域格差是正にも寄与する。都市部と地方部では、学校施設の老朽化やICT環境の整備状況に大きな差がある。文科省は、全国の学校に均質な教育環境を提供することを目指し、施設整備を通じて地域間の教育機会の格差を縮小しようとしている。これは、教育の公平性を担保するための政策的意志の表れである。
 なお、こうした「国土強靱化」政策に位置づけられる学校施設の整備については、概算要求に加えて、年末の予算編成に向けて具体的な金額や事業内容を検討する「事項要求」の対象にもなっている。

「未来の学校像」を具現化するために

 総じて、令和8年度の学校施設整備予算の拡充は、文科省が描く「未来の学校像」を具現化するための戦略的投資である。ICT活用、教育制度改革、防災機能強化、地域格差是正など、多面的な課題に対応するための基盤整備が進められており、教育の質的向上と持続可能性の確保に向けた強い意志が感じられる。
 もちろん、この要求が額面通りに採択される保証はないが、今後は予算の効果的な活用と、現場の声を反映した柔軟な施設設計が求められる。教育の未来は、こうした足元の整備から始まるのである。

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