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校長塾 経営力を高める最重要ポイント【第541回】

4面記事

管理職・学校経営

堀越 勉 千代田区立麹町中学校校長
甚大な「全員担任制」の悪影響
「理想論だけの宣伝」やめ、効果ある方策へ

 「全員担任制の弊害です」
 学校で発生するさまざまな問題に対峙するたびに、教職員の悲痛な叫びを何度聞いたことだろう。
 校長として課題に直ちに改善策を講じていくのは使命である。しかし、アドバルーン的に広報されてきた施策を改善していくには、時間とエビデンスが必要になる。本校の特色である「全員担任制」もまさにアドバルーンの一つであり、学校教育全体に与える悪影響は甚大だ。
 私は、全国や関東甲信越等の校長会の場で24都道府県の校長先生方とこの点について意見交換をしてきた。また、学校への問い合わせや訪問を受けてきた。麹町中方式の全員担任制を導入して、学校が荒廃してしまったという校長先生方とは直接会って議論してきた。
 全員担任制とは「全員の教師が全員の生徒の相談に乗る」という、まさに理想のような仕組みとして宣伝されてきた。
 しかし現実の麹町中では導入当初からもくろみは外れてきた。相談を我慢してしまう、諦めてしまう、大人と距離を置いてしまう―中学生とはそういう現象が起きやすい世代だ。生徒の表情を毎朝観察し、継続的に「看る」ことで変化に気付き、適切に声掛けをするのが担任の役割だが、本校の全員担任制ではその点が欠如してきた。
 全員担任制が始まった当初から不登校率は区内で群を抜いて高い。現在も同様だ。学校評価アンケートでは「相談できる教職員がいない」と答える生徒が毎年25%を超える。以前から同様だ。これらの実態をこれまで公表せず理想論だけを宣伝してきたことに問題の根源がある。
 また、責任の所在が不明確で、教員のモチベーションとモラルが低下し、「全員無責任制」とまで揶揄されるほどの危険性が内在してきた。
 相談できずに苦しんでいる4分の1の生徒を救うべく、令和6年度から、全国の研究事例を参考にし「チーム担任制」に移行した。責任担任を設定することで、全員担任制の弱点を克服しつつ、チームによるOJTの活性化を実現する一石二鳥の優れた施策だ。
 各学校には、改善にちゅうちょする施策もあると思う。しかし、目の前の生徒の姿(課題)を見つめ、真の原因がどこにあるのかを探るとともに、全国の改善事例を参考にすれば、おのずと方向性は見えてくる。理想論だけで効果の薄いアドバルーンは、下ろすべきだと考える。

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