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科学的な探究心を育む最新・理科教育ツール

12面記事

企画特集

2人で1台使用できる理科機器の整備を

「観察・実験」で理科への興味・関心を

将来のモノづくり日本を支える理科系人材の育成が課題になる中、これからの理科教育では「観察・実験」を積極的に取り入れ、科学的な探究に基づいた課題解決力を養うことが求められている。本特集では、そんな新しい理科教育のあり方を探るとともに、こうした資質・能力を養うために教員を手助けする、最新の理科機器やICTを活用した各種ツールを紹介する。

自ら課題を発見し、解決する力を養う

 社会は常に変化し、それによって労働のカタチも変わっていく。21世紀でいえば、テクノロジーの急速な進化に私たちは対応していかなければならない。
 2015年に野村総合研究所は「10~20年後に、日本の労働人口のうち、単純作業や肉体労働など約49%の職業が人工知能やロボット等で代替することが可能」というショッキングな試算結果を発表。人工知能(AI)やロボットの進化が、私たちの社会のあり方を大きく変えることを予測している。
 では、このような未来を生きる子どもたちに対して、学校教育はどんな力を育成していく必要があるのだろうか。
 総務省の「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(2016年)では、AIの活用が一般化する時代に求められる能力として、「チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質」、「企画発想力や創造性」、「コミュニケーション能力やコーチングなどの対人関係能力」を挙げている。
 その一方、従来は必須技能であった「語学力や理解力、表現力などの基礎的素養」はAIに代替されうるスキルとされ、その優先順位が下がっている。つまり、これからの子どもたちに必要なのは、人間でしかできないクリエイティブな能力を磨くことにあるといえる。
 したがって新学習指導要領では、これらの資質・能力を育成するための「主体的・対話的で深い学び」を実現するアクティブ・ラーニング型授業を各教科で導入するよう求めているのであり、理科でいえば「観察・実験」を通して、自ら課題を発見し解決する力を養うことが期待されているのだ。


「観察・実験」を通して自然の事物・現象を理解する

「観察・実験」授業で、学ぶ楽しさを

 資源の少ない我が国にとって、今後もグローバル化する世界で勝ち抜いていくためには「モノづくり日本の復興」がカギになる。そのためには、豊かな発想でアイデアを具現化する力を持った理工系人材の育成が不可欠になるが、今日の日本では若者の理科離れが深刻化しており、IT人材だけでも、20年に37万人、30年には79万人が不足するとの予測が出されている。
 だからこそ、子どもたちには義務教育のうちから理科への興味・関心を高めてもらう必要があり、その意味でも、自らが手に取り、触れて、操作して、体験する「観察・実験」授業がより一層重視されている。なぜなら、子どもたちから理科への興味・関心が薄れていったのは、他の教科と同様に「知識詰め込み型」になり、面白みに欠けてしまったことが要因として挙げられているからだ。特に、中学校に進むと定理や公式の計算など抽象度がより一層高まるため、難しいと感じたり興味が薄れたりする傾向にある。
 本来、理科は正解を導くことよりも、正解に至るプロセスを想像して試行錯誤することに面白みを感じる学問である。仮説や予測を事前に立てて、それが正しいのかを検証するから楽しいのであり、失敗してこそ気づくこともある。すなわち、そのような過程があるから、実感を伴った理解につながるのであり、理科への興味・関心、あるいは楽しいと思える心は、そんなチャレンジ精神があってこそ、生まれてくるものだからだ。
 そうした点でも、これからの社会を生き抜ける理工系人材を育成するためには、理科や科学への興味を失ってしまった子どもの関心を取り戻し、学習へのモチベーションをアップする「観察・実験」授業が大切になるといえる。


夏休みの「実験教室」はどこも大人気

ICTを活用して効率的・効果的な授業に

 一方で、「観察・実験」授業は、事前の準備や片づけなどに時間がかかるため、教員にとっては負担が大きいことが指摘されている。また、いくらやりたい気持ちはあっても、授業時間には限りがあるため、毎回実験を取り入れるというわけにはいかない。あるいは、実験に授業時間の大半をとられて深い学びまでたどり着かないといった声も多く聞く。そこで、こうした実験に伴う諸問題を解消し、子どもたちの興味・関心を引きだすツールとして期待されているのが、ICTの活用になる。
 しかもデジタル教材なら、動画やシミュレーションなどを駆使できるため、教科書や図説だけではつかみきれないもののイメージを具体的に示すことができるほか、試行の繰り返しや学習の振り返りにも応用できるなど、子どもたちの学習理解の向上にも結びつくメリットがある。したがって、教員が授業の内容によってアナログとデジタルをうまく使い分けることにより、効率的かつ効果的な理科授業が実現できるのだ。
 事実、現在の「教材整備指針」の品目には、ICT機器が多くラインアップされるようになっている。学習指導要領では「観察・実験」の過程での情報の検索、実験データの処理、実験の計測などにおいて、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切に活用することを示していることもあり、学校全体で共有可能な教材として、電子黒板、実物投影機、マイクロスコープ、イメージスキャナなどが品目化されている。

探究や協働的な学びに対応した理科教材・機器

 また、理科教材としては、デジタル顕微鏡、望遠鏡用デジタル画像システム、力の測定用具、運動の実験用具、仕事とエネルギーの実験用具などが品目化されている。これも、協働的な学びに反映させるため、最近ではグループで観察できる大型モニターを搭載したものや、画像をWi―Fi機能で教室の電子黒板やタブレットに投影することができるもの、観察記録を内部メモリやメディアに保存できるものなどが登場している。
 あるいは、子どもの科学的概念の理解や探究スキルの習得を進めるため、指導者用デジタル教科書を始めとするデジタル教材(静止画、動画、音声等)の整備が進んでいる。単元に沿って静止画・映像の提示や解説が行えるため効率的であり、教員の負担も軽減できる長所もある。
 さらに、アルコールランプやガスバーナーの代わりに「理科実験用カセットこんろ」を火器として活用する学校も増えている。これは、マッチを擦った経験がないなど、火の扱いに慣れていない現在の子どもにも扱いやすいことに加え、火力が目盛で調整できることでグループごとの実験でも均一な実験結果が得られるなど、家庭でも普及している燃焼器具を使用した方がスムーズに実験が進められるからだ。そのため、小学校の教科書によっては実験器具として推奨されるなど、今後も普及してくことが予想されている。
 このような新しい理科機器は、従来よりも機能的に優れるとともに、1人ひとりの探究的な学びに対応していること。加えて、アクティブ・ラーニング型授業が求められる中で、教え合い学び合う協働的な学びにも広げていくことができる魅力を持っている。

 地球温暖化など気候変動による環境問題、病気の治療や豊かな社会に向けた科学技術の進歩など、理科は私たちの生活に密接に関係している。だからこそ理科教育では、こうした問題や技術に興味を抱いてもらい、将来イノベーションを生み出してくれる人材を育成していくことが求められている。そして、そんな理科の見方・考え方を養うために用いられるのが「観察・実験」授業の充実だ。新学習指導要領の実施を間近に控え、学校現場での積極的な取り組みに期待したい。

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