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自閉スペクトラム症児者の心の理解

14面記事

書評

別府 哲 著
当事者が楽しめる活動通じて

 自閉スペクトラム症という言葉は、世間に広く知られるようになってきた。当事者が自分の生き方を著した本も出版されている。テレビドラマでも、取り上げられている。その一方で、自閉スペクトラム症に対する「紋切り型」で「画一的」な「理解」が浸透している。自閉スペクトラム症児者は、人の心を理解する「心の理論」が欠けていて、人とのやりとりができない。そういう見方が、優勢になっているのだ。そのために、自閉スペクトラム症児者の「障害特性」に合わせた支援や教育が、一般に行われているのである。
 本書は、これとは根本的に異なる視点から自閉スペクトラム症児者の心を理解しようとする。本書では、彼らが楽しいと思う活動を生活の中心に据えた教育実践を通して、自閉スペクトラム症児者が発達していく様子を紹介する。変わっていくのは、自閉スペクトラム症児者だけではない。彼らの傍らにいる親たちや教師たちも、自閉スペクトラム症児者と共に活動し、楽しさを共有する中で、新しい自分を発見していくのである。
 本書が提起するように、教育に求められるのは、障害のない子どもに自閉スペクトラム症児者を合わせていく同化・排除の集団ではない。異なる者たちが共に歩んでいく異質・共同の集団である。そこには、お互いを信頼した豊かな心の理解が生まれるのである。
(1980円 全国障害者問題研究会出版部)
(都筑 学・中央大学教授)

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