日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

「GIGAスクール構想」への対応 教育を“パラダイムシフト”する機会に

12面記事

ICT教育特集

今やるべきことと、目指すことを明確に
赤堀 侃司 日本教育情報化振興会会長・東京工業大学名誉教授

 子どもたち1人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境を実現するため、2318億円を投じ、1人1台の学習用端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する「GIGAスクール構想」。しかし、年度末が迫る中での緊急措置ということから、設置者となる自治体からは戸惑いの声も聞かれている。そこで、今回の整備について赤堀 侃司・一般社団法人日本教育情報化振興会会長 東京工業大学名誉教授にインタビューした。

一歩踏み出す気持ちこそが大切

まずはネットワーク整備を優先
 ―「GIGAスクール構想」は財源の8割を国が補助する手厚い政策になっていますが、2019年度の補正予算のため3月末までに申請する必要があります。
 赤堀 はい、2020年度に繰り越して執行する場合も、実質的な地方負担は同一となるようですが、今年度中に自治体がどれだけ手を挙げるかが、1つのポイントになるでしょう。問題は、今回の整備がハードに限られていることです。本来であれば、それぞれの自治体が教育ビジョンをしっかり構築してからハードを導入するのが筋ですが、今回は逆。しかも検討する時間もないことから、戸惑っているのが現状ではないでしょうか。

 ―もともと文部科学省では、2022年度を目途に3クラスに1クラス分程度の学習者用端末の整備を求めてきました。それに向けて整備を進めている自治体も多いと思いますが。
 赤堀 確かに、現在のところ学習者用端末の普及率は20%と言われていますが、それが一気に100%へと押し上げられる。そのスピード感に行政側がついていけない気持ちも分かりますが、ICT教育後進国といわれる中で閣議決定したというのは、国としての意思決定をしたということです。さまざまな問題はあるかもしれませんが、「とりあえず、踏み出してみませんか」というのが私の率直な意見です。
 なかでも、私自身が重きを置いているのが、自力ではなかなかできない通信ネットワークを整備してしまうことです。教員が一斉指導する従来の教育を続けるなら、そもそも1人1台の端末も必要ないかもしれません。しかし、新学習指導要領でも謳っているように、これからの教育が知識型から、自ら学び自ら考える探究型に変わっていくことを踏まえると、校内のどこでも端末が使えるWi―Fi環境が不可欠になるからです。

 ―学習者用端末は4・5万円の補助ということで、いろいろ意見も出ているようですが。
 赤堀 文部科学省が示したスペックを見ると、不足はないと考えています。何より、クラウド・バイ・デフォルトが前提になっていますから、児童生徒のデータファイルはそこに格納すればいいし、将来的に自宅に持ち帰ることを想定しても、ローカルにデータを保存しない方が安全です。これからの時代は何をするにおいてもネットを使わないことには始まりません。その意味からも、Wi―Fiさえつながれば端末にこだわることはないと思っています。

学習者用デジタル教科書を切り口に
 ―気がかりなのは1人1台端末になったとき、果たしてどれだけの教員が使えるかという点です。
 赤堀 最も大きな課題は、教員が1人1台環境で指導した経験がないこと。これだけ大規模な予算を投入し、もしも埃をかぶるような状況を招いてしまったら、教育の情報化の進展としては大問題です。私は、それを防ぐためのソリューションは学習者用デジタル教科書を導入できるかどうかだと考えています。なぜなら教員は教科書で教えるノウハウには長けており、指導者用デジタル教科書を使った指導の経験を持つ教員も多いからです。
 一方で、学習者用端末は、グローバル化する時代に対応した資質・能力を育成する道具として導入されるため、教育のあり方を探究型に改めないと1人1台導入する根拠が成り立たなくなります。したがって、1人1台環境での指導方法や授業事例の提供を含めた教員研修に力を入れていく必要があります。

主体的な学びを支える環境として
 ―もう1つの課題は指導体制です。「GIGAスクール構想」では4校に1人程度ICT支援員を配置する計画になっています。
 赤堀 「GIGAスクール構想」では4校に1人程度ICT支援員を配置する計画になっていますが、1人1台環境ではどうやっても1クラス2~3台はトラブルが起きるもの。授業の妨げになることを考えるとICT支援員を拡充することも視野に入れる必要があり、そこはキーポイントになると思います。さらには、全員がネットにアクセスすることになるため、技術だけでは防げないヒューマンエラーに対する「情報モラル教育」もより一層重要になります。
 いずれにしても、今回の1人1台端末やネットワークの導入を、子どもたちの主体的な学びを支える環境として捉えることが大切だと考えます。つまり、教育現場には「教育をパラダイムシフトするんだ」という気概を持って、このまたとないチャンスを生かしてほしいですね。

ICT教育特集

連載