日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

人づくり国づくり【第748回】

13面記事

論説・コラム

工藤 勇一 横浜創英中学・高等学校校長
当事者意識持ち社会参加を

 自分の発言や行動は本当に正しいのか、もっといい言葉掛けをすることができたのではないか―。これまでの教員生活は、常に自問自答しながら歩んできました。
 山形の城下町、鶴岡市に生まれました。小・中学校時代はよく先生に叱られました。頭髪を注意され、バリカンで刈られたりもして。「理不尽だなぁ」とは思いながらも、その頃は教育を変えたいという強い思いがあったわけではありませんでした。
 大学で数学を学んだ後、教員として働き出します。子どもたちとの向き合い方で大切にしていたのは、子ども自身の主体性です。例えばけんかの場面では「すぐに仲直りをしなさい」などと急がないこと。「これから君はどう過ごしていきたいのか」が最も大切です。常に自分の力で解決するための支援の在り方を考えてきました。
 子どもたちの教育について考える時、学力調査や本の不読率も大切な要素の一つです。ですが僕自身は、子どもたちが常に当事者だという意識を持って社会に参加していくことが、何よりも必要な力だと考えていました。
 当事者意識が育つと、学校運営にも生徒たちがアイデアを出すようになります。前任校では毎月実施する避難訓練を予告なしで行う提案がされました。「本番に生きる形でないと訓練をやる意味がない」というのです。目の前の行動をただ受け身で行うのではなく、なぜそれを実施するのか、そこから何を学ぶのか。主体的にきちんと向き合って考えてくれたのでしょう。
 生徒の中には頭髪を染めていたり、服装の見た目が派手だったりしても真剣に進路について考えている子がいます。スマートフォンを用いた勉強が自分にとって効率的な勉強法だとする子もいます。見た目や大人の常識が教育のあるべき姿をゆがめてしまうことがあります。意思を持って懸命に歩もうとする生徒の姿こそ、大切に尊重してあげるべき点だと考えています。
 そうした思いで自分なりにこれまで努力してきましたが、過去を振り返ると「あの時の僕の言い方は傷付けたなぁ」「自分の考えを押し付けてしまったかもしれない」と後悔することがたくさんあります。
 日本も含め、われわれ大人の社会はまだまだ未成熟です。違いを尊重し、対話を通して、全員で平和という恒久の目標を実現していくための資質を身に付けていくことこそが、教育の真の役割だと私は思っています。
 どんな子どもたちにも、人の違いを尊重し、社会の当事者としてたくましく生き抜く力を付けてほしい。それが、僕の願いです。

 くどう・ゆういち 1960(昭和35)年生まれ。山形県・東京都の公立中学校教員や教委を経て、千代田区立麹町中学校校長を6年間務める。4月から現職。

人づくり国づくり