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多様性時代に選ぶ卒業記念品

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 卒業生から学校へ、学校から卒業生へ贈られる「卒業記念品」は、人生の節目の日を祝し、学校生活の思い出を彩る一品だ。特に、来春に卒業を迎える子どもにとっては、新型コロナウイルス感染症の流行による休校措置など学校生活に大きな影響を受けたことから、例年以上に大切なアイテムになることが予想される。そこで、秋から本格化する学校の卒業記念品選びに参考となる情報を紹介する。

選定時期を迎えた学校現場に向けて

年々難しくなる記念品選び
 卒業記念品の選定は9月から12月にかけて行われるのが大半だが、近年ではインターネットなどでノベルティに関する情報が入手しやすくなっていることから、選定時期も早まる傾向にある。こうした背景には少子化や価値観の多様化が進む中で、その選定に頭を悩ます学校が年々多くなっていることが挙げられる。
 しかも、卒業記念品の費用を「卒対費」だけでなく「PTA予算」から捻出しているケースでは、なおさら保護者の意向にも配慮する必要があり、記念品選びをより難しくする要因になっている。
 そんな卒業生に贈る記念品の単価はおおむね千円~3千円未満で、卒業する児童生徒を持つPTAから学校に贈呈される記念品は、10万円~30万円程度といわれている。それでも、教育熱心な保護者の多い私立学校を中心に高額化が広がっているほか、部活動やクラス単位で記念品を用意するケースも珍しくなくなっているなど、新たな「卒業記念品」ニーズも生まれている。
 さらに、新型コロナウイルスの感染状況によっては、来春の式典も今年同様に質素化したり、取りやめになったりする可能性がある。そのため、ノベルティ会社によれば、「せめて記念品だけはより良いものを贈りたい」という学校やPTA関係者の声が届いているとのこと。そうした点でも、いつもの年以上に「卒業記念品」が注目されている。

名入れ印刷の進化で選択肢が増える
 卒業生に贈るノベルティで顕著なのは、品種や形状を問わない印刷技術の進化によって名入れできる商品ラインアップが豊富になっていることだ。ボールペンや時計、フォトフレーム、キーホルダー、辞書、印鑑などのオーソドックスなものに加え、近年ではステンレスやクリスタル、木製などの素材にも名入れできるようになり、選択肢の幅が広がっている。また、時代に合わせてUSBメモリ、携帯バッテリー、スマホケースなどのモバイル関連商品も人気になっている。
 あるいは、防災意識の高まりから、非常用持出袋やLEDライト、ランタン。防犯・交通安全対策として、防犯ブザーや反射板を使用したバンドやキーホルダーなどを検討する学校も多い。
 しかも、今年は新型コロナウイルスが流行していることから、マスクケースや非接触マルチキーホルダー、タブレットなどのタッチパネルからの感染を予防するスタイラスペンといった、感染症対策を取り入れた商品を加えるノベルティ会社も現れている。
 もう1つの傾向は、学校名・卒業年度だけでなく、個人名まで名入れする技術が進んできたことだ。少子化に伴ってそうしたニーズも増えており、特に保護者や地域の人々などが熱心にサポートするクラブ活動の記念品には、個人名まで入れるケースが目立っている。本来、小ロットの印刷は単価が高くなることから避けられてきたが、通販サイトの拡大によって価格競争も激化しており、こうした要望にも応えられるようになってきた。
 単価の低い卒業記念品はどうしてもマンネリ化しやすいため、選択肢が増えるのは大きな魅力だ。もちろん予算との折り合いもあるが、通販サイトを検索するなどして、今の子どもに喜ばれる商品を探してみてはどうだろうか。

授業や防災に役立つものが人気
 一方、卒業生のPTAから学校に贈るものとしては、これまでの記念碑や演台などとともに、プロジェクターやプリンター、軽印刷機、ポスタープリンター、拡声器、スピーカーシステムなどの音響製品といった、授業で使える実用品が選ばれる傾向にある。新学習指導要領では子どもが主体的・探究的に学べる機会を増やすよう求めているが、そのための実験・観察機器やICT機器の整備が追いついていない学校が多いからだ。
 さらに、「GIGAスクール構想」によって校内ネットワークやタブレットなどのインフラが急速に普及すれば、こうした周辺機器が活躍する場がより一層増えることが予想されるため、プログラミング教材やロボット、3Dプリンターなどの新しい機器も今後は視野に入ってくるかもしれない。
 また、学校の必需品という点では、災害時に役立つ機器・機材も人気だ。たとえば、避難所となる体育館の大半はエアコンが未整備であるため、大型の赤外線ヒーターや業務用ヒーター、大型扇風機、スポットクーラーなどの寄贈が増えている。加えて、ポータブル発電機や簡易トイレセット、非常用備蓄セットなども、いざという時のライフラインの確保にとって重要なアイテムになる。
 加えて、近年は熱中症対策も大きな課題になっていることから、屋外テントや日よけ、冷水機、熱中症計など普段の体育授業や部活動で使えるもの。これに今年は、非接触型体温計やサーモグラフィーなどの感染症対策用品が選択肢に加わる可能性がある。

原点に立ち返って改革する
 卒業記念品のあり方や費用の捻出方法には、多くの課題がある。どんな慣習行事も時代に埋もれたままでは腐ってしまう。批判があれば見直せばいいし、より良いカタチに変えていけばいい。今こそ、卒業生の門出を祝う、学校へ感謝の思いを伝えるという原点に立ち返り、それぞれの学校にふさわしいハレの日を迎える準備をしてほしい。

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