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金融教育の目的と効果的な授業展開のポイント

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特集 教員の知恵袋

 現代社会で生きていくうえで、金融と呼ばれるお金や資産との関わりを避けることはできません。公正かつ持続可能な社会実現を目指し、国民一人ひとりが生活スキルの一つとして金融リテラシーを身に付けることが重要です。

 金融庁は、平成24年に金融経済教育に関する研究会を設置し、平成25年に報告書内で「生活スキルとして最低限身に付けるべき金融リテラシー」を示しました。今回は金融教育の目的や学校で効果的に金融教育を行う方法やポイントについて解説します。

金融教育とは

 金融教育(金融経済教育)とは、国民一人ひとりがお金や資産の働きを理解し、経済的に自立することを指します。

 お金を手がかりにした授業を通して、子どもたちは社会や自分たちの生活にかかわる物事を具体的に理解できます。また、金融教育は、自ら学び、考えを、主体的に判断・行動して問題を解決する、いわゆる「生きる力」を養ううえでも有効な教育手段の一つです。

 金融庁は、国民一人ひとりが経済的に自立し、より良い暮らしを送ることを目的として金融リテラシー向上のための取り組みを行っています。金融庁のウェブサイトでは、「基礎から学べる金融ガイド」や「最低限身に付けるべき金融リテラシー」など、金融教育のための啓発資料が公開され、また全国の高等学校や大学に無償で配布されています。

金融教育の年齢層別目標

 金融庁が示す「最低限身に付けるべき金融リテラシー」では以下4つの分野に分けられて紹介されています。

・家計管理
・生活設計
・金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択
・外部の知見の適切な活用

 これらの内容を年齢層別に分け、具体的に示しているのが「金融リテラシー・マップ」です。

 マップ内では、小学生から高校生、大学生、さらに若年社会人から高齢者と7つの年齢層別に身に付けるべき内容が記載されています。高校生以下の学校教育については、金融広報中央委員会が取りまとめた「金融教育プログラム」の「年齢層別目標」を基本として推進していくことになっています。

小学生の金融教育ではお金の使い方や払う理由などを理解する

 小学校の金融教育で目指すのは、おこづかいやお年玉、買い物やお手伝いなどを通してお金にかかわる経験や知識、社会で生きていく力の素地の習得です。

 お金や金融の働きについて、小学校の低学年・中学年・高学年とさらに年齢層別に習得すべき目標が掲げられています。

低学年
・ものやサービスを手に入れるときにお金を払う必要があることを理解し、実際に購入する
・硬貨と紙幣の違いに気付き、理解する

中学年
・貯金したお金を将来使えると理解する
・銀行へお金を預ける際に利息がつくことを理解する

高学年
・暮らしを通じてお金のさまざまな働きについて理解する
・預金や貸出を含む、銀行の基本的機能について理解する

 ※引用:小学生のみなさんへ:金融庁「学校における金融教育の年齢層別目標」

 ほかにも、小学生では経済把握や経済変動、経済政策といった金融教育を学びます。

 なお、金融庁のウェブページでは、小学生向けに、金融庁や日本銀行、財務省が提供するお金について楽しく学べるゲームやクイズを公開しています。

中学生ではお金の役割を理解や金融機関の種類、機能を理解する

 中学校の金融教育では、生活設計についての理解や将来の自立に向けた基本的能力の育成を目指しています。特に社会科の公民分野を通して目指すのが下記の項目の習得です。

・お金の役割を理解する
・金融機関の種類およびその機能について理解する
・中央銀行の機能について理解する
・各種カードの種類や仕組み、機能について理解する

 ※引用:小学生のみなさんへ:金融庁「学校における金融教育の年齢層別目標」

 金融庁は、中学校の学習指導要領に対応した副教材「わたしたちの生活と金融の働き」や「10代のためのマネー入門」など、金融教育に役立つ情報を公開しています。

高校生では電子マネー、決済機能など近代的な金融教育を学ぶ

 高等学校の金融教育で目指すのは、生活設計の重要性や社会的責任について理解し、一社会人として自立するための基礎能力を養うことです。年齢層別目標の表では、公民・家庭・商業の授業を通して下記項目の習得を目指すと記載されています。

・電子マネーや地域通貨等について理解する
・決済機能の多様化について理解する
・間接金融や直接金融の意義を含め、金融の仕組みと働きを理解する
・金利の機能と変動の理由について理解する

 ※引用:小学生のみなさんへ:金融庁「学校における金融教育の年齢層別目標」

 金融庁のウェブページでは、中学生向けの副教材と同様に、高等学校の学習指導要領に対応した副教材や、進学・就職後に必要となるお金に関する知識をテーマとした資料が公開されており、授業内や自学習で活用できます。

大学生では一人ひとりが自立できるような能力を養う

 大学の金融教育における目標は、社会人として自立するための能力を確立することです。たとえば、大学卒業後のライフプランを具体的に設計することや金融商品のリスクとリターンについて理解することも含まれます。

 また、家計管理の分野で目標とされているのが、収支管理の必要性を理解すること、状況に応じてアルバイト等で収支改善を行いながら、計画的に自らの能力向上のための支出を行えるようになることなどです。

 金融庁は大学生向けの金融教育として、平成29年度に10大学で「金融リテラシー・マップ」に基づく授業を実施しています。

効果的な金融教育を展開するためのポイント

 金融庁では、中学生・高校生向け副教材や教師向けの指導マニュアルなどが公開されています。それらをうまく活用することが、学校での金融教育をより分かりやすく展開するポイントです。

 特に教師向けの指導マニュアルには、授業での活用例や授業の展開モデルも記載されているため、金融教育のねらいやポイントをよりクリアに生徒に伝えられます。

 さらに、教材やマニュアルの使用とあわせて活用できるのが、全国の財務局が行う財政・税制・経済・金融・国有財産などについての講演会や学校への講師派遣制度です。これらを活用することで、生徒の金融リテラシーをさらに深めることが期待できます。

生きる力を養うための金融教育

 金融教育とは、単にお金の仕組みや金融商品のリスクなどを学ぶためのものではなく、生活するうえで必要なお金の使用・管理に関する知識や判断力、「生きる力」を養うという重要な役割を担っています。

 金融庁が公開する教材や指導マニュアル、財務局の派遣講師制度を活用することで、学校での金融教育をさらに効果的に展開することが可能です。一人ひとりの生活に大きくかかわる「生きる力」としての金融リテラシー育成を目指し、子どもの発達段階に応じて継続的かつ発展的な金融教育に取り組むことが求められます。

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