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幼児教育現場で望まれる新型コロナ対策

15面記事

企画特集

幼稚園・認定こども園感染症予防特集

 新型コロナウイルスの勢いが続く中、抵抗力が弱く、感染症への理解も難しい幼児をあずかる幼稚園・認定こども園では、「3密」対策や消毒作業などにより感染及び拡大リスクを可能な限り低減した上で、園運営を継続していく必要がある。そこで、文科省の取り組みや感染症に対する正しい知識に基づいた予防対策について紹介する。

感染予防に1園あたり30~50万円を手当て
サーキュレーターや二酸化炭素モニターも

 文部科学省は新型コロナの感染拡大を受け、「新たな日常」においても幼児を健やかに育むことのできる環境の整備を推進するため、幼稚園・認定こども園施設が感染症対策を徹底するための経費を昨年度の第1~3次補正予算で合計104億円を投入。さらに、来年度の概算要求においても1園当たり30~50万円の手当てとなる215億円の予算を盛り込んだ。
 購入できる品目では、消毒液や非接触型体温計といった保健衛生用品はもちろん、室内の換気を徹底するためのサーキュレーターや、十分な換気ができているかの指標(学校環境衛生基準は1500ppm)をモニターできる二酸化炭素濃度の計測装置なども明示。加えて、職員の負担を軽減するため、教室等の消毒作業を外注する経費にも活用できる。
 また、幼稚園のICT環境整備支援にも、1園当たり100万円の交付基準額となる14億円を計上。オンラインによる教員研修や保育参観、保育動画の配信やアプリを利用した家庭との連絡など、情報システム導入に係る費用に利用できる。
 これらは施設内の感染症対策を園長の判断で迅速かつ柔軟に対応することができるよう、国が緊急的な措置として支援するもの。併せて、各自治体でも独自に予算を設け、感染予防となる設備や備品の充実を進めているところだ。

「3密」対策が現実的には難しい幼児教育現場
 新型コロナは、換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面という3つの条件が重なる場で集団感染のリスクが高まるとされている。幼児教育現場では、こうした「3密」対策が現実的には難しい面があるため、これまでもインフルエンザやノロウイルスなどの集団感染をたびたび起こしてきた経緯がある。しかも、小児ぜんそくなどを抱える子は合併症を併発する恐れもあるため、より慎重な感染症対策が求められている。
 それでも園内で感染症が広がるケースがあるのは、発症した園児だけではなく、症状のない子や軽症の子、または職員が認識のないまま病原体を排出している可能性があるからだ。だからこそ、職員は自身の健康管理はもちろんのこと、毎朝の検温の徹底を保護者に意識づけさせるとともに、登校時の検温や日中の園児の様子を注意深く観察する必要がある。
 そんな幼児教育現場の日常的な感染予防策では、まずは手洗いが基本。食事の前やトイレのあと、外で遊んだあとには必ず手洗いするなどの習慣化が大切になる。また、新型コロナは飛沫による感染例が多いため、食事の場面では対面式でなく横並びで座る、仕切り板を取り付けるなどの工夫が必要といえる。あるいは、鼻汁などの分泌物や下痢便などは病原体を含んでいるものとみなし、その処理に十分気をつけることも重要だ。

1日の消毒回数が10回以上に及ぶ
 次に、園内ではトイレまわりやドアノブ、食事テーブルといった園児がよく触る場所を中心に定期的に消毒することが望まれる。ただし、幼児教育現場では積み木やブロックなどのおもちゃを使うことが多いため、丸洗いできるものは消毒液につけ、洗えないおもちゃはスプレーで消毒液を拭きかけるなどの処置が必要で、1日の消毒回数が10回以上に及ぶといわれている。したがって、こうしたさまざまな接触部位に抗ウイルス効果を持続させるコート剤やスプレー剤を活用し、職員の作業負担の軽減に役立てる幼児教育現場も現れている。
 続いて重要となるのが、室内のこまめな換気だ。特に注意したいのは、エアコンを使用していても換気は必要なこと。室内の空気を循環しているだけで、外気の入れ替えは行われていないからだ。それゆえ教室に換気・加湿設備が整備されていない施設は、冬場でも園児の厚着を認めた上で30分に1回以上、少なくとも休み時間ごとに窓を全開にして換気に努める必要がある。
また、広い空間でも快適な空気を作り出せる空気清浄機を配備するところも多くなっているほか、ウイルスの不活化に効果のある有人環境下で使用できる紫外線照射装置なども注目されている。

園児のマスク着用にはこだわらない
 一方で、職員のマスク着用は欠かせないが、園児にマスクを常用させるのは現実的ではないのも事実だ。そもそもきちんとつけられない子や、つけたがらない子が多いことに加え、窒息、さらに夏場は熱中症のリスクもある。また、幼い子には皮膚炎やストレスによって健康を損ねる可能性があり、マスクの着用には慎重さが求められる。
 WHOとユニセフも低年齢層における感染状況と子どものマスク使用に関する限定的なエビデンスながら、「5歳以下の子どもは必ずしもマスク着用にこだわらなくていい」としており、この見解には子どもたちが適切にマスクを着用するには能力的に、最小限でも大人の助けが必要であるなど、社会心理的な必要性と発達状況などの判断が加味されている。

過度にならない感染予防を続ける
 これまでの傾向では、子どもは新型コロナに感染しても重症化するリスクは大人と比べて低く、感染しても無症状なケースが多いことが特徴だ。しかし、世界的な感染状況を見ると、冬季と夏季に感染者数が増加しており、季節性の影響が大きいことが分かっている。したがって、日本も夏季に再び感染が拡大することが予想されるほか、変異株ウイルスによって感染スピードが高まる懸念も指摘されている。
 さらには、国民全体への新型コロナワクチン接種が思うように進まない実態も見えており、当面の間は感染が一気に収束することはないといえる。
 すなわち、来年度も引き続き感染予防に努めることが重要になるが、過度な対策をすれば園児の楽しみを奪い、職員の負担増につながることになる。だからこそ、幼児教育現場にはリスクに応じて基本的な感染予防策を続けていくことを望みたい。

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