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「大人になるってどういうこと?」まもなく成年を迎える現役高校生に聞く

10面記事

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高校生オンライン座談会

 現役で高校に通う3年生の多くはすでに18歳を迎えており、卒業後すぐに「成年」として社会生活を送ることになる。高校を卒業して2年の猶予なく大人の仲間入りをすることになる、現役の高校生はこの状況をどのように受け止めているのだろうか。3人の高校生が引き下げに伴う疑問点や不安を、司法書士やクレジットの専門家にぶつけた。(司会=河口竜行・渋谷教育学園渋谷中学高等学校教諭)。

参加者

井上 柊 渋谷教育学園渋谷高等学校3年生
長井 陽菜 宇都宮中央女子高等学校3年生
駒井 義久 東山中学高等学校3年生

オブザーバー

小泉 嘉孝 司法書士 大阪司法書士会所属、日本司法書士会連合会法教育推進委員会副委員長
大平 充洋 一般社団法人日本クレジット協会消費者・広報部部長
(敬称略)

高校生が思う「大人」のイメージ

 ―成年年齢がこの春から、20歳から18歳に引き下げられます。その一人として、皆さんが思い描く「大人になる」とは、どんなイメージですか。

 長井 親の同意がなくても自分で契約ができる、お酒やたばこがたしなめるようになるのが「大人」だと思います。自由が増えるイメージです。

 駒井 社会での行動範囲が広がることだと思います。大きな決断をする場面が増えると思うので、行動に責任を持たなければいけないし、それに伴い「危険」も近づいてくると思います。新成人を狙った詐欺も増えるのではないかと心配しています。

 井上 自由になると同時に、行動に責任が求められるようになると思います。親権に服することがなくなるので自分の行動を見つめ直すことが大事になると思います。大人になるということが「社会の一員になる」という自覚を持つことだとしたら、今どきの高校生も同じような意識を持っている人が多いです。それよりも「自分の行動に責任を持つ」ことのほうが大きく感じます。

契約や選挙はどうなる
 ―「責任」「決断」「自由」というキーワードが出てきました。法律や契約の専門家の方に聞きたいことはありますか。

 駒井 成年年齢引き下げに伴い、少年法が改正されて、4月から18、19歳の人は「特定少年」の位置づけがされること、罪を犯した時に実名報道がされることを知りました。その他に、特定少年であるが故に変わることがあるのでしょうか。

 小泉 専門的な法律の知識に基づいて書類の作成や手続きを行う司法書士をしています。
 駒井さんが調べてくれたように、実名報道がされることはその通りです。簡単に言うと、少年が罪を犯した場合、裁判所は更生を期待しての教育や処遇を考えます。ですが、特定少年の場合は今回の民法の成年年齢の引き下げに伴い、17歳以下の少年より広く刑事責任を負うことになります。

 長井 選挙権の年齢引き下げは先行して行われましたが、今回の引き下げで選挙に行こうと考える人が増えると思います。でも、深く考えずに投票する人が出てくるのではないかと思います。

 小泉 それは18歳だからということではなく、どの世代にも同じ問題があるのではないでしょうか。今の大人の「前に倣え」になるのではなく、自分自身が社会に対して、どのような問題意識を持つかが大事です。例えば学校や家庭にあるルールに対して「なぜなんだろう」と意識を持ち、考え始めることが最も大事だと思います。

 大平 私の仕事は、消費者にクレジットを正しく理解してもらう広報・啓発活動です。「18歳を迎えた高校3年生でも、クレジットカードは作れる?」という質問をよく受けます。たしかに、成年年齢引き下げで契約に際して親の同意は不要になります。しかし、カード会社では原則として高校生にはクレジットカードの発行をしないルールとしているところが多いようです。というのもカード会社は「クレジットカードを使ったら後からお金を払ってくれる人かどうか」を必ず審査して発行するかどうか判断しています。それは未成年でも成人でも同じで、18歳になったら誰でもクレジットカードを持てるという意味ではありません。

トラブルの対処法は
 ―この他に、成年年齢引き下げにより危険と考えられることはありますか?

 大平 成年になったばかりの人を対象にしたトラブルです。例えば「100万円儲かる方法がある」などと話を持ち掛けて、「そのためにはこの10万円の商品を買う必要がある」と、売りつけるような悪徳な業者がいるようです。ターゲットが18歳、19歳に移っていくことが考えられます。

 長井 悪い業者を見分ける方法はありますか?万が一、だまされたときは、どうすればいいでしょうか。

 小泉 だます手口や場面をあらかじめ知ることが大事です。ネットでも勉強できますから、まず学びましょう。そうすれば、仮にトラブルに巻き込まれても「法的に抜け出す手段がある」「契約をまだやめることができる」と対処の可能性があることに気付けます。具体的な手続きをとるには専門的な知識が必要になってくるので、先生や保護者など周囲の人に相談し、専門家につないでもらうとよいと思います。一人で抱え込まず、相談することが大事ですね。
 大平 その通りです。国民生活センターのホームページには若者を狙ったトラブル事例が掲載されています。悪い業者はすぐに契約をさせようとします。そんなと
きは一度持ち帰り、親に相談することです。ひと呼吸おけるかどうかがポイントです。もし、トラブルに遭ってしまったら全国の消費生活センターが相談にのってくれます。「188(いやや)」の電話番号で近くのセンターにつながります。問い合わせや相談先を知っておくことも対処法のひとつです。

 駒井 成年になると、携帯電話や住宅ローンなどの「契約」も親の同意なしでできますよね。でも、先ほどの大平さんの話にように、高校生とは契約しないというお店や銀行もあるのでしょうか。大きな契約はまだ18歳には難しい、と思われているのですか?

 小泉 契約というのは、契約を結ぶ双方が合意して成立するものなのです。一人暮らしをするためにアパートを借りようと賃貸契約を結ぼうとする時も同じです。法的には単独で契約ができるようになっているけれども、事実上は「親の同意」や「親を保証人とする」などの条件を提示されることは考えられるでしょう。

 井上 そうすると、そもそも成年年齢引き下げの目的は何なのでしょうか。

 小泉 少子高齢化により「若い大人」が減少しています。若者の大人を増やして社会を活性化するのが一つ。さらに今の18歳、19歳の人たちの実態と法律を合わせようという狙いもあるようです。
 大学に進学してアルバイトをしたり、高校を卒業して就職したりすれば自分でお金を稼いで、買い物をしたり旅行に行ったりするわけです。そうしたときに自分の判断で契約できるようにしたほうが法律の上でも整合性がある、と考えられるのです。

成人式の扱いは
 ―漠然としていた成年年齢の引き下げが、具体的に質問することで理解が深まってきました。さて、みなさんの地域では「成人式」の扱いはどうなるか、知っていますか?

 長井 はい。私の住んでいるところでは「20歳」になりました。最初は、18歳から20歳まで3学年分の人が集まってやる、という話もあったようですが、それはちょっと嫌だなと思っていたので、20歳に落ち着いてよかったです。

 駒井 自分のところは、まだ見ていないですが、僕は20歳で実施すると全国で決めたらいいのではと思います。これまでの成人式の文化もありますし、友達同士で会って成人式がまだの人と、もう済んだ人とがバラバラにいると成年という意識にギャップが出てしまうのではないでしょうか。

 井上 私の自治体も「20歳」だとホームページで見ました。18歳は受験を控えている人も多いのが理由だと理解しています。

大人になるのは楽しみ?不安?
 ―みなさん自身は、どんな大人になりたいですか?

 井上 自分のやりたいことを、そのままできるような大人になりたいです。これは、私の性格かもしれませんが、遊ぶ時は遊ぶ、やる時はやる、とメリハリのある生活を送りたいです。親元を離れても、家族は大事にしたいと思います。

 長井 困っている人を助けられる大人になりたいです。私がここまで成長するまでにたくさんの人に助けてもらったので、恩返しができたらいいと思います。大学に進学したら大人としての自覚を持たないと、と思っています。

 駒井 社会に出るのは楽しみですが、不安もあります。勉強や仕事においてやりがいを見出して、楽しさを感じられるような生活を送りたいです。

社会を変える大人へのステップ
 ――これから社会に参加していく皆さんは、ご自身が「社会を変えられる」と考えることはありますか?

 長井 うーん、思っていないです。どうやって変えたらいいか具体的な方法が分からないので実感がないのが正直なところです。

 井上 部分的には変えられると思います。自分から何かを発信することで、それが仲間を増やしていくことができれば、社会の何かの認識を変えていくことは少しずつできると思います。

 駒井 「変えられる」と思います。進学先の大学では地域創生を専攻します。町の中に緑が豊かにすることも社会課題の解決につながり、社会貢献になると思っています。

 ―将来の夢を教えてください。

 駒井 実家が造園業なので跡を継ぎたいと思っています。大学の専攻もそのために選びました。小さい頃から見てきた身近な仕事が、文化財の保護や街の緑化に役立つのを見てきたので、自分も地域貢献できる仕事ができたらと思います。

 井上 私はまだ職業としては決めていません。弟が知的障害を持っているので、福祉分野に関心があります。そのために何を学び、どうするかは大学に進んでから決めていこうと思っています。弟が安心して暮らせる社会づくり、最終的には社会全体にも視野を広げて知的障害の人が安心して暮らせる社会づくりを目指せるようになりたいと思っています。

 長井 弁護士を目指しているので法学部に進学します。女性や子どもなど弱い立場にある人の力になりたいです。もし、夢が叶ったら誰かの役に立てることがうれしく感じられると思います。

 ―今日、専門家の方に疑問をぶつけ、同年代で成年年齢引き下げについて話してみてどうでしたか?

 長井 普段、友達と成年年齢に関する話はしないので同年代の高校生と話せてうれしかったです。大人になるのが楽しみになりました。

 駒井 疑問に思っていたことを専門家の方にわかりやすく答えてもらえました。ありがとうございます。身の周りの成人に、成人になって意識が変わったかを聞いたら「あまり深く考えていなかった」と答える人も多いです。これからも成人はどうあるべきかを調べ、考える機会を作っていきたいです。

 井上 引き下げの理由や注意点を知ることができ、知識が広がりました。質問や将来の夢を話すことで自分の意見がまとまって言語化できました。こういう機会自体が重要なのだと改めて思いました。大人になるのも悪くはないな、と楽しみが前よりも増えました。

 ―今日はありがとうございました。

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