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学校施設の浸水対策費用は?

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人的被害が想定される学校から
 学校施設の水害対策を検討するにあたっては、市町村等が公表するハザードマップなどを参考に、優先順位をつけて対策を検討していくことが求められる。
 すなわち、対象となる学校が多数ある場合は、子どもの安全確保といった人的被害が想定される学校を第一順位に、学校教育活動の長期中断または避難所機能の喪失といった社会的損失が想定される学校を第二順位に、浸水被害が発生した際の復旧規模が大きいといった経済的損失が想定される学校を第三順位にするなどである。
 また、優先順位を検討する上では、浸水の頻度・浸水深の二軸からソフト・ハードそれぞれで対応する範囲を見定めて、対策を検討すること。併せて、他公共施設の活用や今後の学校の統廃合や、施設設備の改修計画なども考慮に入れる必要がある。
 とりわけ、幼稚園や特別支援学校など、避難の際に要配慮者が多いと想定される学校施設については、垂直避難のためのスロープ等の整備など避難路のバリアフリー化の推進。エレベーターの活用を想定する場合には、浸水発生時の電源の確保、機械部への浸水対策についても併せて検討することが欠かせない。
 さらに、近年の豪雨等の災害では、学校周辺のがけ地やのり面が崩壊し、学校施設に土砂が流入するなどの被害が発生している。そのため土砂災害特別警戒区域においては、外壁等の改修や校舎の周囲に土砂を有効に遮る壁体の設置など、安全性の確保を講じることが考えられる。

浸水対策を実施する場合の費用
 では、学校施設が浸水対策を行う場合は、どれくらいの費用が必要になるのか。文科省の「学校施設の水害対策事例」によれば、受変電設備の浸水を防ぐために、高さ2~2・5mの架台を設置した費用は、約690万円~1200万円。受変電設備を校舎2階に移設した場合は、約1200万円(屋内キュービクル、変圧器等の設備費を含む)。そのほか、防音処理や空調換気扇の整備に約80万円がかかっている。
 また、止水板の設置では、電気室の入口に高さ50cmの止水板を2枚重ねる形で設置した場合は、約130万円。屋内運動場の出入口4カ所に、高さ30cmの止水板を設置した費用は約90万円。
 さらに、老朽化改修として建物全体の床を2・6m高くしつつ、教職員、児童生徒や地域住民の避難経路を確保したケースでは、約17億円の総工費に対し、高床化(約7500平方m)に要した費用は約2・8億円となっている。

防災機能の強化を図る事業の支援制度
 このような工事等によって防災機能の強化を図る事業の支援制度としては、文科省の防災機能強化事業(学校施設環境改善交付金)がある。補助率は3分の1で、1校当たり400万円以上2億円以下の事業が対象となる。加えて、新増築事業(公立学校施設整備費負担金)改築事業では、校舎の新増築や、危険建物・不適格建物の改築に併せて水害・土砂災害対策を実施する場合、工事の内容によって2分の1から3分の1の補助が受けられる。
 また、総務省では即効性のある防災・減災のための地方単独事業(25年度まで)として「緊急防災・減災事業債」があり、浸水・土砂災害対策のための施設整備全般(受変電設備のかさ上げや上階への移設、止水板や防水扉の設置等)、大規模災害時に迅速に対応するための情報網の構築(防災行政無線のデジタル化、Wi―Fiの整備等)について、元利償還金の70%を地方交付税措置として活用できる。
 国土交通省も、雨水の貯留浸透機能を有する管渠等の設置・改造として3分の1の補助が受けられる「新世代下水道支援事業」を設けている。その他、一級河川または二級河川の流域内にある学校施設の水害対策を実施する場合、立地適正化計画に基づき、都市機能誘導区域内へ学校施設の移転等を実施する場合などについても補助がある。

豪雨で被害を受けた場合の経済的損失
 なお、学校施設が豪雨で被害を受けた場合の経済的損失も甚大になる。たとえば建築工事関係では、木質の設えを施している諸室の仕上げ材の張り替えや建具の修繕、ロッカーや戸棚、特別教室の作業台などの造作家具、什器の交換、屋内運動場のフローリングの張り替えなどに費用がかかる。また、電気設備については、浸水した受変電設備の交換、室外機の浸水に伴う空調機の交換などに復旧費用がかかる。さらに、より大きな被害を受け、復旧までに期間がかかる場合には、仮設校舎なども必要となる場合もある。

全国どこで水害が起きても不思議ではない
 地球温暖化の影響なのか、都市化による排水機能に限界があるのか、近年の水害は台風というよりも、短期間豪雨や線状降水帯による連続した豪雨が続くことが要因となっている。すでに今年の夏も、青森や秋田などの東北地方では、前線の停滞による影響で長雨が続き、記録的な降水量を計測。河川の氾濫による住居・農地等への浸水や、土砂崩れによって家屋の倒壊、線路の盛り土の流失などの大規模な被害が起きている。
 もともと日本の夏は高温多湿であるところに、地球温暖化による気温上昇が加わって水蒸気が増えている。それゆえ、今後も1日の降水量が200ミリ以上という大雨が増えることが予想されているが、地震災害と共通しているのは、全国のどこでも水害が起こり得ることだ。
 ただし、水害対策としては気象情報による避難をはじめ、物品の移動、止水板の設置など、事前対応が地震と比べて準備しやすい利点もある。このため、豪雨や台風の発生により被災が想定される場合の初動対応から、被災後の応急復旧、学校教育活動再開までの段階を想定したタイムラインをあらかじめ作成し、関係者において共有しておくことが重要になる。

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