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実用性へとシフトする卒業記念品選び

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 どれだけ時代が移り変わっても、人生の門出を祝して贈られる「卒業記念品」は、子どもたちの大切な思い出に寄り添うアイテムになる。しかし、教育現場を取り巻く環境や保護者の価値観が多様化する中で、何を贈ろうかと頭を悩ませている学校も多い。そこで秋の訪れとともに選定時期を迎えた学校現場に向けて、今の時代だからこそ選びたい卒業記念品を紹介する。

コロナ禍を3年間過ごした子どもたちへ、思い出に残るアイテムを

選定時期が早まる理由
 「卒業記念品」は学校から卒業生へ贈られるものと、卒業生(PTA)から学校へ寄贈される2種類がある。加えて、近年では少子化の影響もあってか、部活動の記念としてノベルティを作ったり、クラスごとに独自の記念品を用意したりする「新しい卒業記念品」の需要も高まっている。
 一般的に、卒業生に贈る記念品の単価はおおむね千円~3千円未満で、学校に贈呈される記念品は私立学校を除くと10万円~30万円程度といわれている。また、そのための費用は「卒対費」と「PTA予算」の両方から捻出している学校が多いようだ。
 こうした中、卒業記念品の選定時期も年々早まっている。なぜなら、インターネット通販の進化によって商品ラインアップが充実しているのは良いが、そのぶん、うっかり時期を逃すと在庫切れや欲しい商品が手に入らなくなる恐れがあること。また、保護者の生活スタイルの違いや経済格差が広がり、卒業記念品に対する考え方も多様化する中で、1つのアイテムに絞ることが難しい状況も生まれているからだ。
 しかも、卒業記念品を担当する教員にとっては、少子化による全体予算の縮小によって卒業アルバム制作の単価自体も上がっている。保護者の負担が増えることで、その調整は一朝一夕ではいかなくなっている。

コロナの影響を受けた世代だからこそ
 だが、子どもたちのことを思えば、大切な思い出の品となる選定をおろそかにはできない。特に、来春卒業を迎える子どもは、3年間にわたって新型コロナウイルス感染症の影響をまともに受けた世代であり、学校生活での貴重な経験となる修学旅行や運動会といった学校行事も中止や縮小を余儀なくされている。また、日常の生活においても、自由な活動やコミュニケーションを制限されてきた経緯がある。
 加えて、いつまた再び感染拡大が起こるかもしれない中では、来春の卒業式も平常通り行える保証もない。それだけに、せめて記念品だけは大切な思い出となるようなものを選んであげたいと思う教員や保護者も多いはずだ。
 一方、新型コロナの影響はそれだけでなく、中国などからの原材料費の高騰によって、ノベルティなどの販売価格を値上げする動きも出始めている。したがって、学校においては価格が上がる前に見積りをとったり、なるべく早く発注したりするなどの対処が求められるようになっている。

名入れ技術の進化によって増えるアイテム
 では、実際にどんな商品が選ばれているのか。小学校の卒業生へ贈られる記念品として人気なのが、千円前後で収まる名入れのノベルティグッズだ。シャープペンシルやキーホルダー、マグカップ、イニシャルハンカチ、缶バッジなど。中学ではそれにフォトフレームや卓上電波時計、オルゴール、USBメモリ、オリジナルTシャツなどが加わってくる。
 また、伝統的なアイテムを重んじる学校では、印鑑やふくさ、辞書が相変わらず根強いほか、SDGs教育が重視されている中で、エコバックや水筒、地元の間伐材や廃材を使った木製時計やフォトフレーム、海洋プラスチックゴミを再利用したスマホスタンドなど環境への意識を高める商品を選択する傾向も高まっている。あるいは、卒業記念品として絵皿やフォトスタンドなどを、児童生徒に自作させる方法を取り入れる学校も。
 さらに、近年では万が一の災害時に重宝するLEDライト、ランタン、手動ラジオ、非常用持出袋といった防災用品を選択する学校も多いほか、コロナ禍に配慮したマスクケース、パーソナル加湿器、各種抗菌グッズなども人気となっている。
 そのほか、私立の小学校になると高機能でデザインもおしゃれな有名ブランドのタンブラーやマグカップ、中学ではモバイルバッテリーやスマホケース、ワイヤレススピーカーといったスマートフォンに関連した商品が、児童生徒に喜ばれる記念品として採用されるケースが多くなっている。高校では海外ブランドの万年筆やボールペンなど高級筆記具、女子校ではブランド物のアクセサリーや名刺入れなどの革製品、自分で好きな商品が選べるカタログギフトを贈る学校も出てきている。
 現在では印刷技術が進化し、名入れが可能な素材が増えたことで選択肢の幅が広がっている。ただし、その商品選び自体はPTAや教員が決めることが大半なため、今の子どもの感性に合っていない商品を選ぶことや、センスのない名入れの仕方にならないように注意したい。

学校への寄贈品の主流はICT機器や防災用品
 PTAから学校に寄贈する記念品は、従来からある記念碑や楽器などに代わって、電子黒板や長尺印刷機、プロジェクター、プリンター、デジタル顕微鏡といった学校で足りていないICT機器や理科実験機器など、在校生の学びに役立つものを選択することが主流になっている。
 また、ここ数年増えているのが、防災や熱中症対策に使える機材や設備だ。災害時には地域の避難所となる学校施設は防災設備の導入が遅れている。そこで、平時は熱中症予防にも使える大型扇風機やスポットクーラー、冷水機などが人気を呼んでいる。加えて、運動会などの学校行事で使用する大型テントは昔からPTAからの寄贈品として定着していたが、近年では災害用の仮設テントとしても使え、夏場は日よけとして熱中症予防にも活用できることもあって再評価されている。ほかにも、赤外線ヒーター、ポータブル蓄電池、スピーカーセット、体育館で使用する大型の電動スクリーン、無線LAN機器、太陽光発電装置も選択肢に入っている。
 加えて、コロナ禍においては感染症の拡大予防となるサーモグラフィーなどの検温装置や、室内の換気に適したサーキュレーター、空気清浄機などもトレンドになっている。

AI技術で卒業アルバム制作の負担を削減
 学校のICT環境の充実に伴い、卒業アルバムにもデジタル化の波が押し寄せている。その理由の1つは少子化によって印刷・製本コストの単価がアップしてしまうことで、小規模校の中には卒業アルバムの制作自体を断念する学校もあるからだ。
 その中で、学校がWEBサイト上で編集・発注できる「デジタル卒業アルバム」の採用が増えてきている。ネットにあるテンプレートを利用すれば、専門知識がなくても写真のアップロードやレイアウト編集が容易にできるため、外注費用を削ることが可能になるからだ。また、製本も小ロットでも安価にできる特徴があるとともに、災害などでアルバム自体を紛失してしまった場合も、いつでも再製本できる。あるいは、クラスごと個人別といった柔軟な編集も可能になるなど、デジタルならではの卒業アルバム作りの魅力も注目されている。
 さらに、教員の働き方改革が課題になる中で、卒業アルバム制作を担当する教員の負担が大きくなっていることが挙げられる。卒業アルバムづくりに使う写真は、現在では日頃からスマートフォンやデジタルカメラで撮り溜めた数千枚に及ぶ中から選択する必要がある。しかも、不平等を避けるために子どもたちの写真が偏らないよう配慮しなければならず、写真を選別するだけでも大変な手間になっているからだ。
 こうした中で、スマホやタブレットで見る「卒業アルバム」が人気を呼んでいる。印刷アルバムより多くの写真を掲載できるとともに、動画や音声も掲載できるからだ。
 卒業アルバム制作支援システムにも注目が集まっている。AIが子どもの顔を自動的に判定する他、差し替える写真の候補を自動でピックアップするなど便利なサービスも登場している。すでに導入した学校の中には、従来よりも作業時間が半減したところもあるようだ。

「この場所にいた」証として
 今の卒業記念品は、時代によって変わるもの、変わらないものなど多種多様なアイテムの中から選択できるようになっている。そして、いつの時代も変わらないのは子どもたちの将来に思いをはせ、心を込めて選定する気持ちである。子どもたちはそれを受け取ることで、楽しかった学校生活を振り返り、支えてくれた人たちに感謝する気持ちを感じてほしい。
 もう一つ、卒業記念品には「歴史を伝える」という意味があるという。「君たちは確かにこの場所にいた」という証を与えるのだ。これから大人へと成長する中では、きっと楽しいこと、つらいことなどさまざまなことが待ち受けている。でも、振り返れば、確かに君はこの場所にいて、仲間たちと過ごした日々がある。いつかそのことに気が付くときに、証が手元に残っている。そんな卒業記念品を手渡したいものだ。

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