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子どものための居場所論 異なることが豊かさになる

12面記事

書評

阿比留 久美 著
生き生きと過ごせる場の重要性

 公園で子どもたちが集まっていると、何やら怪しいと警察に電話する大人がいる。幼稚園が近所に新設されると子どもの声が騒がしいからと、反対する大人もいる。かつて子どもだった大人が、子どもたちを「敵視」する構図だ。そんな奇妙な社会に、今の日本はなってしまっている。今こそ求められるのは、子どもたちが健やかに生き生きと過ごすことのできる居場所であり、子どもの成長を優しく見守る大人の存在である。
 本書は、著者自身の成長過程や子育て経験のエピソードを交えつつ、現代社会における居場所の重要性を多様な視点から解き明かしたものである。その中から2点を挙げてみる。
 第一は、地域における子どもの遊び場づくりの実践である。「ケガと弁当自分もち」という言葉に象徴されるように、そこでは、大人の支えの下で、子どもたち自らが遊び場の主人公となっていく。子どもたちは冒険を楽しみ、そこに自分の居場所を見つけていくのだ。
 第二は、学校や家庭が自分の落ち着ける場所になっていない子どもたちの問題である。不登校やいじめ、虐待などを経験した子どもの居場所づくりは、貧困や格差が増大する日本社会において緊急かつ重要な課題である。
 本書を通じて子どもの居場所を考えることは、大人の生き方自体を問い直す契機にもなる。多くの関係者に一読を勧めたい。
(2200円 かもがわ出版)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

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