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「地域展開」で推し進める部活動改革 生徒も教師も、やりたい人がやりたい形で続けられる持続可能な部活動を目指して

9面記事

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 文部科学省は学校における働き方改革を踏まえた部活動改革の第一歩として、部活動を学校単位から地域単位の取り組みに段階的に移行する方向性を示した。これに先立ち、令和5年度より地域の実情を把握するための調査等が順次進められる見込みだ。この改革が持続可能な部活動と教師の負担軽減を実現するものとなり、より豊かな人間形成の機会となるために、何が必要で、どのように進めていくべきか。日本部活動学会初代会長・現副会長の長沼豊氏に話を聞いた。

生涯学習やまちづくりの起点に

SNSが表面化のきっかけに 過剰な休日勤務や体罰問題

 ―学校教育の一環として行われてきた日本の学校の部活動ですが、勝ち負け至上主義が過熱しているという懸念もあります。

 長沼 日本の部活動は技術の習熟や上達にとどまらず、自主性やチームワークを養い、連帯感や達成感を味わう教育的な場でもあります。しかし運動部のほとんどは競技スポーツ種目なので、全国大会に向けて頂点を目指す仕組みが自然とできてしまいました。吹奏楽や合唱など一部の文化部もそれに倣って活動しています。
 大会やコンクールはモチベーションアップにつながる一方で、教師の休日勤務や体罰の問題を生みました。以前から指摘されてはいましたが、社会的な問題として明るみに出たのは2015年頃から。現場の先生がSNSで切実な声を上げたのです。私が部活動改革を唱え始めたのも同時期です。

 ―長沼さんは中学教師時代から部活動に問題意識を持っていたのですか。

 長沼 むしろ部活大好き人間で、バスケットボールや水泳部の顧問をし、ボランティア同好会を生徒と立ち上げたくらいです。ただ30代になって子どもを持ってからは、顧問と家庭との両立が難しく疑問を持ち始めました。
 SNSで声を上げた先生方もその頃の私と同年代で、「大好きな部活だから、苦しむ先生や生徒は出したくない」という気持ちは同じでした。彼らが「顧問就任の選択制」を求めて行った署名活動の趣旨文を読んでみるととても正当で、はっとさせられました。課外活動の教科外活動の研究者や実践者と情報を共有し始め、顔の見える議論の場の必要性を実感し、2017年に設立したのが日本部活動学会です。

 ―部活動改革、まず現場ですべきことは何でしょう。

 長沼 教科で行っている「主体的・対話的で深い学び」を部活動でも実現するために、生徒が自分たちで考えて決定しているか、内申書に影響することなどを理由に全員参加がまかり通っていないか等々、負の部分がないかを考えてみることです。そして、今回の部活動改革の柱である、教員の時間外労働を減らして働き方改革を進めるためには、部の数を減らす仕組みをつくることです。これは簡単なことではありません。部の数が減っても生徒、先生共にやりたい人がこれまでのように部活動に参加できるという「部活動における個別最適化」が必要。それには「地域展開」が不可欠です。

地域で部活の新しい仕組みをつくる

 ―「地域移行」ではなく「地域展開」なのですね。

 長沼 「地域展開」は、地域で行う部活の新しい仕組みをつくるということです。今の部活の仕組みをそのまま地域に移行しても先生方の負担は減らないし、負の部分まで移行されることも懸念されます。文科省は「休日の部活動の段階的な地域移行」を掲げていますが、休日に限定して始めても、顧問が休日の指導者と打ち合わせをしなければいけないのでかえって負担増になると思います。
 地域展開ではまず、近隣の数校で合同部活をしたり、拠点校方式で行ったりするのも一案です。例えば自校にバスケ部がない場合、近隣のバスケ拠点校に生徒、先生が移動して活動する。これなら先生が異動しても顧問を続けることができます。
 大会やコンクールを目指す部活と好きなことを楽しむ部活のどちらかを選べるというように、目的別に部活動を再編できたらもっといい。大会を目指して頑張るものもあればゆるいサークルもあるといったイメージです。これこそ部活動における個別最適化だと思います。

 ―どのように進めたらよいでしょうか。

 長沼 まずは3~5年、合同部活と拠点校方式で行う。その間に地域クラブを立ち上げる。地域の受け皿ができるのに5年はかかると思います。10年かけて「まちぐるみで部活をつくる」という発想が必要です。

 ―「まちぐるみの部活」、取り組みの事例はありますか。

 長沼 私がアドバイスしてきた静岡県掛川市では、市内の各スポーツ協会、文化財団、スポーツ・文化の地域クラブが共同で部活動を運営する仕組みづくりを令和3年から始めていて、令和7年の夏から本格的に運営をスタートする予定で準備を進めています。この仕組みには9割の先生が賛成。部活が生きがいだという先生方は地域クラブで指導者になれるし、合同チームや地域クラブとしての大会への出場は中体連も認めているので、今まで通りの活動ができるでしょう。

 ―運動も文化活動も、部活を引退すると途切れてしまう傾向があります。地域クラブならずっと続けられますね。

 長沼 部活動が生涯学習、生涯スポーツになり得るのは地域展開の大きなメリットです。子どもから高齢者まで地域クラブで同じスポーツ、文化活動を楽しめれば、そこから次の指導者が出てきます。
 今回の部活動改革で文科省は部活動指導員制度をとり始めましたが、指導員を見つけるのは大変で、どうしても高齢者や大学生に頼りがちです。地域クラブなら卒業後も活動を続け、社会人になったらコーチとして休日に参加することもできます。多世代交流ができれば、地域クラブが学校以外の子どもたちの居場所になるかもしれません。

 ―異世代で対話する明るい未来が見えるようです。地域も活気づきそうですね。

 長沼 私たちは「部活動改革はまちづくり」と言っています。自分たちのまちを活性化するときと同様に部活動を自分事として考え、皆で同じ意識を持って取り組むこと、自治体が音頭をとって人、物、お金をひねり出すことが大事です。
 地域クラブは、ドイツのように非営利法人としてしっかり資金をつくれる仕組みにするのがいいと思います。バックアップしてくれる企業を探したり、行政から補助金を得たり、トップアスリートが寄付をする仕組みをつくったりと、手段はたくさんあります。
 地域クラブでユース育成をしているという点で、サッカーやバスケットボール団体の手法は参考になります。どのような形をとれば子どもたちと先生のためになるのか、各自治体の特徴を生かして考えればそれぞれのロードマップが描けるでしょう。

 ―部活動改革は先生の働き方だけでなく、少子化問題、生涯学習やまちづくりにも結びつく大事なテーマなのですね。

 長沼 スポーツや文化振興では、関わる人の数が増えてすそ野が広がれば競技レベルが上がるというのがセオリーです。掛川市や埼玉県白岡市のように、部活動の問題は学校だけでなく地域で考えなければいけないテーマだと地域のトップが気づいてリーダーシップをとると一気に動き出します。
 「もし全員顧問制でないのなら、顧問をやりたくない」という先生がどのくらいいるか、掛川市で調査したところ半数を超えました。先生方の本音はそんなところではないでしょうか。
 部活動顧問がネックになって学生が教員採用試験を敬遠するようでは教育の未来はありません。教育現場に優秀な人材を迎え入れるためにも、今こそ真剣に部活動について考えるときです。戦後70年かけてできた仕組みを良い方向に変えるチャンスととらえ、新しい部活動の仕組みをつくっていけるよう、日本部活動学会でも引き続き良い事例の紹介や研究報告をしていきたいと思っています。

長沼 豊(ながぬま・ゆたか)
 日本部活動学会副会長、学習院大学大学院非常勤講師、学習院大学人文科学研究所客員所員。2017年に日本部活動学会を設立し、部活動の研究、優れた実践事例の紹介、情報発信・提言を続けている。

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