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脱炭素社会の実現に貢献する~エネルギー収支「ゼロ」の校舎へ~

14面記事

施設特集

改修時の補助率引き上げや建築単価アップで支援

「省エネ」+「創エネ」で脱炭素化を推進
 国策となる2050年のカーボンニュートラル達成に向けては、公共施設から率先してエネルギー収支「ゼロ」を目指した建築物(ZEB化)にすることが求められており、学校施設においても脱炭素社会の実現に貢献する持続可能な教育環境を整備していかなければならない。
 そのため文科省では、年間で消費する建築物のエネルギー量の「省エネ」化と、太陽光発電など自然の力でエネルギーを創り出す「創エネ」を掛け合わせて学校施設の脱炭素化を推進していくことを掲げている。
 「省エネ」化の具体的な方策としては、消費電力を抑える高効率空調やLED・人感センサー照明機器、節水トイレや断熱ガラス、二重サッシなどエネルギー負荷を低減する建材や断熱材、自然光や通風を利用した換気システムによる無駄の回避、屋上緑化や雨水利用、地域木材を活用した建物・内装における木質化の推進などが挙げられる。
 また、そのための支援策として、長寿命化改修の補助率を3分の1から2分の1に引き上げるとともに、LED照明、木材利用など標準仕様の見直し等に伴う建築単価のアップにも着手している。さらに来年度の概算要求では、物価変動も考慮して対前年度比+18・7%を加算するとともに、体育館への空調設置についても補助率を引き上げる方針だ。
 学校施設の「創エネ」としては、これまで進めてきたエコスクール化をより一層進めていく。そこでは、現在34・1%(1万校弱)まで伸びている公立小中学校における太陽光発電設備の増設を図るほか、風力(406校)やバイオマス(241校)、地中熱(102校)、燃料電池等利用による発電設備を整備していくこと。あるいは、校庭芝生化、再生木材チップを使用したルーバーやウッドデッキの整備などを加えていくことが考えられる。

学校施設のゼロエネルギー化は「実現可能」
 一方、学校施設を本当にゼロエネルギー化できるのかという疑問があるのも事実だ。しかし、文科省「学校ゼロエネルギー化推進方策検討委員会」の報告によれば、学校施設は商業施設と比べると年間の一次エネルギー消費量が10分の1程度と少ないことから、徹底的な省エネルギー(-50%)に加え、大規模な太陽光発電等の創エネルギー(+50%)を行う最大努力対策をした場合、ゼロエネルギー化は「実現可能」という見解を示している。
 なお、学校のエネルギー消費源の7割以上が電力由来のもので、その構成は照明45%、暖房22%、換気14%、冷房4%となっていることから、創エネ分としての太陽光発電設備は50~100kwを設置することが有効とのこと。
 つまり、そうした条件からも、学校施設はゼロエネルギー化への取り組みを積極的に行う意義のある建築物の一つというわけだ。また、学校施設は地域の避難所も担うことから、ゼロエネルギー化の対策技術は、災害時における建物機能や室内環境の維持にも貢献すること。加えて、学校施設を活用して環境教育を行うことにより理解を深め、家庭・地域の環境意識の向上につなげる効果も期待できるという。
 したがって、今後も学校施設の脱炭素化に資する施設整備にかかる技術的事項等について検討を行うワーキンググループを設け、地域の違いによるZEB基準の水準を満たす建物仕様や、モデル建物による年間一次エネルギー削減量の試算、学校施設の脱炭素化の実現に必要な整備量の試算などを手掛けていく意向だ。

ZEB化する計画を策定した学校に支援措置
 環境を考慮した学校施設の推進については、文科省はこれまでも農林水産省、国土交通省、環境省と連携協力し、学校設置者である市町村等がエコスクールとして整備する学校を「エコスクール・プラス」として合計249校を認定。各省ごとに新増築・改修における国庫補助の手当など優遇措置を設けてきた。
 ただし、これまでの文科省の支援措置の対象は「エネルギー消費量を削減する事業(省エネ割合10%)」及び「木材を利用する事業(内装木質化)」の2種類に限られていた。そのため、学校施設のゼロエネルギー化をより一層進めていくことを目的に、2022年度からは「地域脱炭素ロードマップ(国・地方脱炭素実現会議)」に基づく脱炭素先行地域などの学校のうち、「ZEB Ready」を達成する事業について支援措置を行うことを打ち出している。
 具体的な要件としては省エネ割合を「50%」とし、将来的にすべてのエネルギーを創エネで賄うことでZEB化する計画を策定した学校に対し、8%の単価加算を講じる計画だ。
 こうした学校施設における脱炭素化の取り組みは、政府が全国100箇所で進める「脱炭素先行地域」の事例でも顕著になっている。例えば横浜市では小中学校の屋上などの未利用スペースに太陽光発電設備を導入。川崎市は学校を含む全公共施設の屋根等を活用した太陽光発電設備・蓄電池を導入。岡山県真庭市は公共施設について、全面的なLED化や屋根等に太陽光・蓄電池を導入。新潟県佐渡市も教育施設(125施設)で屋上等を活用した太陽光や蓄電池を整備している。

学校からカーボンニュートラルの実現を
 わが国が掲げるカーボンニュートラル実現の目標に近づくためには、まずは公共施設やオフィスビルの徹底した省エネ化+創エネ化に着手していくことが求められている。中でも学校施設は公共施設の特に敷地が広く、新たに太陽光発電等の創エネルギー設備を設置するスペースにも余裕が残されている。また、前述した通り、年間にかかる一次エネルギー消費量が少なく、ゼロエネルギー化を実現しやすい施設であり、地域の避難所も担う重要な拠点となることからも、今後のさらなる設備の導入や環境負荷対策を期待したい。

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