校長塾 経営力を高める最重要ポイント【第544回】
4面記事堀越 勉 千代田区立麹町中学校校長(東京都中学校長会会長)
「AI×自由進度学習」の弊害
依存や「自習化」招き学力低下
ある大学から、講演の依頼があった。テーマは「AI×自由進度学習」の成果。本校においては、学力低下に結び付いている現状を説明し、丁重にお断りした。主催者の趣旨と真逆の現状が目の前にある。夢のある「虚像」を語るようなことをしてはならないと私は考える。
特色ある教育実践がマスコミなどで大々的に取り上げられ、注目を集める学校があるが、退職や異動などにより校長が代われば、当時の取り組みが学校経営にさまざまな影響を及ぼすことになる。対外的には見えなかった課題に振り回される、現在の生徒や保護者の実情と合致しない、ということもあるだろう。しかし、校長は、過去に縛られる必要はない。
本校は以前、AIを取り入れた先進的な数学の授業を開発してきた経緯がある。当時としては珍しく、開発業者と共に新たな提案を全国に発信してきたと聞く。「主体性」の旗印の下、自由進度学習を掛け合わせる形で活用してきた。
生徒の学力の経年変化はどうだろう? 全国的に展開している標準学力テストの結果を精査してみた。入学時から1年間で数学の偏差値が毎学年3~4程度下がる。場合によっては5下がる学年もある。偏差値の低下は、毎年同じように繰り返されている。これは、本校の仕組みと指導力低下に原因があり、生徒に責任はない。
全国規模の校長会の席上で、他県の校長から「AI×自由進度学習」による指導力低下と学力低下の話があった。AIと自由進度学習は、生徒も教員も依存度が高くなる。いかにも、個別最適な学びを実現しているかのような錯覚に陥る。経験の少ない教員の授業は「自習化」すると言うのだ。使用しているソフトは、本校と同じものだった。
本校ではAIに依存した指導と、前回述べた「授業研究や学習指導案は不要」といった考え方が掛け算となり、このような状況を招いた。しかし、AI導入のトップランナーのように宣伝されてきた経緯があり、現実と正対することを避けてきたのかもしれない。
ソフト会社の設定した無料期間終了に伴い、長田和義前校長の英断により、AIソフトの契約は打ち切られている。
公立学校の使命とは何か?
目の前の子どもの力を伸ばすことだ。私は、その実現に向けて教師の指導力を高めたいと思う。授業研究ベースの数学科授業改善は、一合目を過ぎたところだ。