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部活動の地域展開を進める背景と現状、課題解決に向けた動きについて

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特集 教員の知恵袋

 文部科学省は、令和5年度から7年度までを「改革推進期間」と位置づけ、部活動の地域移行に関する取り組みを進めていました。しかし、令和7年5月「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」において、令和8年度以降の部活動改革の方向性等を示す「最終とりまとめ」がまとめられました。

 「最終とりまとめ」の内容を受け、本記事では改めて部活動地域展開の概要や取り組みの現状、課題への対応について詳しく説明します。

部活動の地域展開とは

 部活動の地域展開とは、急速な少子化が進むなか、生徒が将来にわたって継続的にスポーツや文化芸術活動に親しむ機会を確保し、充実させることを目的とした取り組みです。これまで学校単位で行われてきた部活動を地域全体で関係者が連携して支える仕組みに移行します。これにより、生徒に豊かで幅広い活動機会を提供し、新たな価値を創出することが狙いとされています。

 部活動の地域展開では、民間クラブチーム等との差別化や質の確保のため、国が地域クラブ活動の定義や要件を示し、地方公共団体が認定を行う仕組みが構築されています。こうした理念を踏まえ、従来「地域移行」と呼ばれていた取り組みは「地域展開」という名称に変更されました。

出典:文部科学省『「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」最終とりまとめ ポイント①』『部活動の地域展開等の全国的な実施に向けて

部活動の地域展開の背景

 中学生という多感な時期にさまざまな体験を得ることは、自律的な成長や心の居場所づくりに大きく関係します。しかし、従来の部活動は教員が指導を担う体制が前提であり、働き方改革や専門性の面からさまざまな課題解消が求められます。

 一方で、地域には学校にはない多様な人材や専門的な知見が存在しています。このような環境を活用することで、学校だけに部活動にかかる負担を集中させず、地域クラブや民間団体と連携する形への移行が進められています。

出典:文部科学省『「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」最終とりまとめ ポイント①』『運動部活動の地域移行について』『運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン』『学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について

部活動の地域展開が目指す姿

 部活動の地域展開は、子どもたちが安心して活動を続けられる環境を地域全体で整えることを目指しています。主な目的は次の3つです。

 (1)子どもたちのための環境づくり:少子化でも、子どもたちがスポーツや文化活動を継続して楽しめる環境を確保する
 (2)学校の働き方改革と教育の質向上:教員の負担を減らし、授業や生徒指導に専念できる時間を増やす
 (3)地域全体で子どもを育てる仕組みづくり:地域が主体となって指導者や施設を整え、多様な活動機会を提供する

 部活動の地域展開は「学校から地域へ」という枠組みの変化を通じて、持続可能で多様な学びと体験の場を実現していくことが期待されます。

出典:文部科学省『「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」最終とりまとめ ポイント①』/スポーツ庁『運動部活動の地域移行について

部活動地域展開の現状と課題

 文部科学省は、令和8年度以降を改革実行期間と位置づけ、休日の部活動を原則すべて地域展開へ移行し、平日も段階的に展開する方向としています。地域展開を進めるうえで次のような課題が挙げられています。

 ・指導体制の確保:休日・平日を問わず指導者や運営団体の量・質をどう管理すべきか
 ・費用負担の公平性:公的負担と受益者負担のバランスを自治体ごとに調整し、経済状況による不均衡を防ぐ制度設計
 ・安全・連携体制:個人情報共有、安全管理、移動手段、活動場所の整備など、学校と地域との連携を強化するためのインフラ整備

出典:文部科学省『「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」 最終とりまとめ ポイント①

部活動地域展開における主な課題への対応

 部活動の地域展開を円滑に進めるためには、体制整備や人材確保など多方面での課題解決が必要です。

▽運営体制の整備

 ・地方公共団体・関係団体との連携強化
 ・コーディネーターの配置
 ・財政基盤の確立
 ・ICT活用による業務効率化

▽指導者の質・量の確保

 ・人材バンクや大学生の活用
 ・教職員兼業の推進
 ・研修会・資格取得の支援
 ・適切な処遇による専門性の向上

▽大会・コンクール運営

 ・参加規程の見直し
 ・交通費・宿泊費支援
 ・外部委託や保護者参画による運営体制の強化

▽生徒の安全確保

 ・事故・不適切行為防止の研修
 ・相談窓口の整備
 ・責任所在の明確化
 ・保険加入の徹底

▽その他の課題

 ・活動場所や移動手段の確保
 ・保護者・地域住民への理解促進
 ・障害のある生徒の活動機会保障 など

 これらの課題を着実に解決することが、生徒が安心して多様な活動に参加できる地域展開の実現につながります。

出典:文部科学省『「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」 最終とりまとめ ポイント①

持続可能な部活動の実現に向けて

 部活動の地域展開は、生徒に多様な体験機会を提供し、学校や地域にとっても新たな交流や活性化が期待できる取り組みです。

 一方で、指導者や施設の確保、経済的負担の軽減など、解決すべき課題も残されています。少子化が進むなか、活動を持続可能な仕組みとして根付かせるためには、地域の実情に応じた柔軟な体制づくりが求められます。学校と地域が役割を補完し合い、無理なく参加できる環境を整えることが重要です。

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