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よくわかる防災教育 災害理解から学校・地域防災まで

14面記事

書評

藤岡 達也 編著
自然と共存する視座を提供

 先日の津波、毎年の豪雨災害などわが国はまさに「災害大国」と言える状況にある。しかし、災害直後の緊張感も時間の経過とともに薄れ、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ように、防災への関心は次第に低下しがちである。そもそも自然現象そのものを人間の力で防ぐことは困難であり、故に「減災」という概念が重視されるようになっている。
 まず本書は、防災の第一歩として自然現象の理解が不可欠であるという視点から、地震・津波・火山噴火・土砂災害・豪雪などの災害メカニズムを平易に解説している。さらに、原発事故のような複合災害にも言及し、現代社会における災害の複雑性を浮き彫りにする。
 特筆すべきは、災害の「恩恵」にも目を向けている点である。火山の地熱や温泉、自然景観など、災害と共存する知恵が随所に盛り込まれており、災害を単なる脅威としてではなく、自然との関係性の中で捉え直す視座を提供している。
 本書はまた、学校教育に携わる教員や防災士を志す人々、地域防災に関心を持つ市民にとって、具体的な事例が豊富に紹介されており、理論と実践をつなぐ懸け橋となる。
 寺田寅彦が「文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈の度合いを増す」と述べたように、現代社会においてこそ、災害への備えと理解はより深く、より広く求められるべきであろう。
(2860円 ミネルヴァ書房)
(中村 豊・前公益社団法人日本教育会事務局長)

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