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夜間中学の概要と現状 誰もが学べる環境を目指して

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特集 教員の知恵袋

 中学校夜間学級(以下、夜間中学)は、さまざまな事情で昼間に学校へ通えなかった人や、義務教育を修了できなかった人のために設けられた教育の場です。近年では学び直しの場としても注目され、年齢や背景の異なる幅広い世代が在籍しています。

 本記事では、夜間中学の概要や学習環境、その現状について解説します。

夜間中学とは

 夜間中学とは、夕方から夜にかけて授業を行う中学校の夜間学級のことです。正式には中学校夜間学級といい、さまざまな理由で義務教育を修了できなかった人々に再び学ぶ機会を提供する「学び直しの場」として重要な役割を担っています。

 夜間中学は、学校教育法第1条に規定される正式な中学校であり、昼間の中学校と同じ教育課程に基づいて授業が行われます。

 授業は週5日間で、教員免許を持つ教員が指導を担当します。公立の場合は授業料は無償で、すべての課程を修了すれば中学校卒業資格が得られる仕組みです。

出典:文部科学省『夜間中学の設置促進・充実について』『夜間中学で学びたい方へ

夜間中学の歴史

 夜間中学は、昭和20年代初頭に設置されたのが始まりです。戦後の混乱期には、家事や仕事のために昼間通学できない人が多く、公立中学校の二部授業の一環として夜間に学べる学級が設けられました。

 その後、平成28年12月に『義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律』が成立し、第14条で地方公共団体に夜間中学における就学機会の提供が義務づけられました。

 さらに令和5年6月、文部科学省によって策定された「教育振興基本計画」では、すべての都道府県・指定都市に少なくとも1校の夜間中学を設置する方針が示され、希望する人が誰でも学べる体制づくりが推進されています。

出典:文部科学省『夜間中学を知っていますか?』『義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律

夜間中学の学習環境

 夜間中学の大きな特徴は、年齢も経験も国籍も異なる人たちが同じ教室で机を並べて学んでいることです。学ぶ人それぞれの背景は違っていても、夜間中学は一人ひとりの学習機会を確保する重要な役割を担っています。

夜間中学の学生とその背景

 現在夜間中学で学んでいるのは、学齢期に義務教育を十分に受けられなかった人たちです。例えば、戦後の混乱期に学校へ通えなかった人、不登校などの事情から十分に学べないまま中学校を卒業した人、日本や本国で義務教育を修了できなかった外国籍の人などがいます。

 こうした多様な背景を持つ生徒に対して、夜間中学は一律の教育ではなく、一人ひとりの状況や希望に寄り添った学びを提供しています。

出典:文部科学省『夜間中学を知っていますか?

多様性に対応した教育内容

 夜間中学では、生徒の年齢、経験、勤労の状況などに応じて、さまざまな工夫をこらした教育を行っています。

▽教育内容の例

 ・習熟度別のクラス編成や複数教員によるチーム・ティーチング
 ・必要に応じて小学校段階の学習内容を取り扱う
 ・必要とする生徒には日本語の指導を行う

 これらの内容に加えて、日本語指導が必要な生徒に対し、専門家や通訳と連携した指導体制の構築に取り組んでいる学校もあります。

 基本的には、平日の夕方から夜にかけて1日4時間ほど授業が行われ、それ以外にも運動会や文化祭、遠足、修学旅行などの学校行事、給食の提供を行う学校も存在します。幅広い活動を通じて多様な学びや交流を広げられる機会が用意されています。

出典:文部科学省『夜間中学を知っていますか?

夜間中学の学生の声

 夜間中学に通う在校生や卒業生からは、「ここで学べてよかった」という声が多く届いています。

▽生徒・卒業生の体験談

 ・さまざまな世代の仲間と過ごす時間がとても楽しい
 ・夜間中学に入学してから世界が変わり、明るく、積極的な性格になった
 ・数学や英語、日本語を一生懸命勉強し、高校に合格できた
 ・夜間中学を経て定時制高校を卒業して会社員として働けるようになり、収入も増えて将来に希望が持てるようになった

 このような声から、夜間中学は単なる学び直しの場にとどまらず、人の生き方や未来を大きく変える力を持つ場であることが伝わってきます。

出典:文部科学省『夜間中学で学びたい方へ』『夜間中学設置応援資料-夜中を全国に!

夜間中学の現状

 夜間中学の設置は国の方針として位置づけられており、就学機会を提供することは自治体にとって重要な責務です。令和7年4月時点で、全国では41の都道府県・指定都市に62校が設置されています。

 しかし、令和2年の国勢調査によれば、全国には少なくとも未就学者が約9.4万人、最終学歴が小学校の人がおよそ80.4万人いることが明らかになりました。

 加えて、不登校児童生徒の増加や外国籍住民の増加も背景にあり、学び直しの場として夜間中学の必要性が一層高まっています。

 国は夜間中学の設置を推進するために、次のような多面的な支援を行っています。

 ・教育環境の整備
 ・専門人材の配置
 ・日本語指導体制の強化と地域との連携
 ・ICTの導入による学習支援

 これらの施策を通じて、義務教育を実質的に受ける機会がなかった人々に学びの場を保障することが期待されています。

出典:文部科学省『夜間中学設置応援資料-夜中を全国に!

「学びたい」という気持ちを支える社会へ

 夜間中学は、年齢や国籍、これまでの経験にかかわらず「学びたい」という思いを持つ人に学習の機会を開き、一人ひとりに合った教育を届けています。そこには、基礎的な学力の習得だけでなく、人との出会いや自己肯定感を育む場としての意義もあります。

 国や自治体も設置・運営の支援を強化しており、今後さらに多くの地域で夜間中学が整備されていくことが期待されています。誰もが学ぶ権利を保障され、自分の人生を前向きに築いていけるような社会を実現するために、夜間中学はこれからも欠かせない存在となっていくはずです。

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