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ライティング教育の可能性 アカデミックとパーソナルを架橋する

14面記事

書評

松下 佳代・川地 亜弥子・森本 和寿・石田 智敬 編著
論文と随筆の境界、往還を問う

 わが国の大学で行われているライティング教育は、アカデミック・ライティング(学術的に書くこと。学術を範として学校で指導される文種)に関するものがほとんどである。本書ではこれに日記や手紙、実践記録といったパーソナル・ライティングを対置し、アカデミックとパーソナルの架橋が目指される。
 論文が求められる場面で、随筆を書くことは避けねばならない。逆もまたしかり。これら二つは「混ぜるな危険」と見なされているが、実のところ、明確に分けられるものではない。では、教育的文脈において両者をどのように均衡させ、往還させられるのであろうか。
 第Ⅰ部では、ライティング教育の歴史を丁寧にたどる中で、アカデミック/パーソナルの境界の曖昧さと複雑さ、そして多様性を浮かび上がらせる。第Ⅱ部・Ⅲ部では、日本だけでなく、アメリカなど諸外国の指導の在り方や教師教育における事例が示され、ライティング教育の広がり・深みに迫る。本書の幕間に差し挟まれた二つの座談会と五つのコラムも読み応えがあり、提示される問い(「書くことのアートを教えることは可能か」など)そのものが実に興味深い。
 本書を通読すれば、人間形成全体におけるライティング教育の意義が深く理解できるだろう。AIの技術が急速に進化し、誰でも簡単に文章を生成できるようになった今こそ、手に取りたい一冊である。
(3300円 勁草書房)
(井藤 元・東京理科大学教授)

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