一○○年前の「入試改革」 一九二○年代中等学校入学難問題にみる教育と選抜
12面記事
石岡 学 著
学科試験撤廃を巡る“迷走”
大正の終わりから昭和の初めにかけて迷走した「入試改革」を取り上げている。「中等学校入学難問題」と副題にあるように、その志望者に比して中等学校の数が少なく、入試を突破するために生じる受験生の健康被害への懸念や、関東大震災による影響が「学科試験撤廃論」につながったこと、政権交代が生じたことなどが「入試改革」の背景にはある。
著者は「一九二○年代に出版・刊行された関連書籍・教育関連雑誌に掲載された論説や記事、新聞報道を主たる資料」として引用しながら、「中等学校入学難問題」の社会的背景、「入試改革」をめぐる動向、乱立する中等学校入試改革案と争点のありか、文部省による入試改革の「断行」、座礁する入試改革、「入試改革」が見落としてきたもの―などの各章で、当時の教育関係者の入試に対する百家争鳴ぶりを丹念に描き出し、読み物としても興味深い一冊になっている。
「なぜ入試改革は失敗を繰り返すのか、にもかかわらずなぜ改革しようとするのをやめないのか、という問いに収斂していった」というのが著者の問題意識である。
確かに、当時の入試に対する主張の裏側には、現代にも通じる指導観・教育観が垣間見える。ただ、行政的に見れば、前年度にまとめた試験制度改革案を次年度に実施しようという国の姿勢は、あまりにも短兵急。再度の政権交代があったとはいえ、「座礁」は必然である。
(4400円 勁草書房)
(矢)