パラアスリートら講師による教育プログラム「あすチャレ!」 体験して見つかる、DE&Iの気づきと深い学び
16面記事
山本 恵理さん
(公財)日本財団パラスポーツサポートセンター/DE&Iプログラム推進部ディレクター
パラ・パワーリフティング選手山本 恵理さんに聞く
「障がいのある人はできないことが多い」
―そんな子どもたちの固定観念を、遊びを通じて変えていく授業がある。パラアスリートを中心とした講師による「あすチャレ!ジュニアアカデミー」は、共生社会の実現に向けた新しい教育プログラムとして注目を集めている。現役のパラ・パワーリフティング選手でもある山本恵理さんに、その意義と実践について聞いた。
DE&I社会の実現につなげていきたい
―パラ・パワーリフティングとはどのような競技ですか?
台に仰向けに寝転がり、重りのついたバーベルを両手で握り、胸までおろして、上げる「ベンチプレス」競技です。重量だけでなく、姿勢や上げ方の精度も競います。私は2016年に体験イベントで偶然この競技に出会い、そこから練習を積んで選手になりました。
現在は現役選手として、常に「どうやったら勝てるか」を考え、トレーニングを続けています。そして、競技生活で培った、プロセスを楽しむ姿勢や、柔軟に工夫を重ねる思考力を生かして、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)社会の実現につなげていきたい―それが「あすチャレ!ジュニアアカデミー」を企画した狙いです。
―どのようなプログラムなのでしょうか?
「あすチャレ!ジュニアアカデミー」は、今、学校教育で推進されている「主体的・対話的で深い学び」につながるワークショップ型のプログラムです。パラスポーツ体験や講話に重点を置いた「あすチャレ!スクール」の発展型として誕生しました。遊びを通じたコミュニケーションの中から、子どもたちが社会にある「違い」を理解し、多様性や共生社会について考え、動くきっかけを得ることができます。
―プログラムの内容や流れを教えてください。
・講師の自己紹介で「できること」を伝える
まず、講師が自己紹介をします。取り組んでいるパラスポーツや、生活の中での工夫を共有します。子どもたちが抱きがちな「障がいのある人はできないことが多い」というイメージを覆すためです。車いすを使う私の場合ですと、手だけで運転できる車などを紹介します。一方で、雨の日に傘やかっぱを使うのが難しいといった、工夫してもすぐには解決できないことを伝えることで、障がいのリアリティも伝えていきます。
・子どもたちと一緒にルールを考える
続いて、講師と子どもたちで「遊び」のルールを考えていきます。私が皆さんとするのは「鬼ごっこ」です。車いすの私と子どもたちとが一緒に遊ぶために、どんなルールにすればいいかを自分たちで考えるのです。
子どもたちは私に「車いすだと、どのぐらいの速さで走れる?」「車いすを降りてほふく前進できる?」など、さまざまな質問を投げかけてきます。私は実際にやって見せるんです。これがこのプログラムの醍醐味ですね。「障がいのある人を助ける」という一方的な視点ではなく、お互いができることを見出して支え合う共生社会の原則を経験することができます。
子どもたちの考えたルールに基づいて「鬼ごっこ」を体験
「皆でできるようになるための方法」を編み出す
―プログラムを通じて、子どもたちはどのような気づきを得ますか?
ゲームをした後、ルールを考えた子どもたちや見ていた子どもたち、そして講師からも、楽しかったか、ルールのどの点が良かったかなどを伝え合います。最後に、授業を通して思ったことを明日への行動につなげるために「あすチャレ宣言」として発表してもらいます。
「もっと楽しめる工夫をしたい」「困っている人がいたら声かけたい」といった具体的な行動を宣言する子どもが多いです。直接的に「声をかけてね」と言っていなくても、障がい者と相互理解を深め、対話しながら共に生きられる社会を作れるのだという経験の原点になっていると感じますね。
―パラアスリートが講師を務めることのメリットは?
まず、スポーツを切り口にできるため、子どもたちや先生方と共通点を見出しやすいという強みがあります。そして、競技生活を通じて培った独自のマインドセットを伝えられるのが強みです。勝つための正解はありません。柔軟な考え方を持ち、試行錯誤を重ね、そのプロセスさえ楽しめる。それがパラアスリートなのです。パラスポーツを紹介するだけでなく、リアルな触れ合いを通じてインクルージョンの感覚をつかめるよう努めています。
―全国の先生方へのメッセージをお聞かせください。
私たちは、このプログラムを通して「皆でできるようになるための方法」を編み出す、コミュニケーションの場を提供したいと考えています。
「あすチャレ!ジュニアアカデミー」は、準備から全て私たち講師とスタッフにお任せいただけます。また、講師はパラアスリートという、既に工夫や視点を変えることで「できない」を「できる」に変えてきた存在なので、子どもたちへの訴求力が高く、導入がスムーズです。
プログラムの満足度は非常に高く、リピートしてくださる先生もいます。何度やっても子どもたちの創意工夫によるので、異なる結果が生まれるため、見ている先生方も楽しんでいただけます。答えは一つではないという試行錯誤のプロセスと対話の「深さ」を子どもたちに、そして先生方にもぜひ味わっていただきたいと願っています。
パラアスリートと共生社会を学ぶワークショップ型授業
「あすチャレ!ジュニアアカデミー」
パラアスリートを中心とした講師によるレクチャーやワークショップを通じて、チガイを認識し、共生社会への一歩を踏み出す授業。オンライン版でも講師と児童生徒が対話し楽しみながら学びます。
・教育効果
障がい当事者とのコミュニケーション方法問題を解決する能力 など
・費用
オンライン/1万円、対面3万円/回(交通費含む)
・形式/時間
オンライン/45or50分、対面90分
https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/jracademy/
問い合わせ先
あすチャレ!ジュニアアカデミーのお申し込みは、FAX、メールもしくはWEBフォームにてお受けします。
FAX03-6807-4988 Mail jracademy@parasapo.tokyo(@は半角)