フランクル初期論集1923ー1942
14面記事
ヴィクトール・E・フランクル 著 ガブリエレ・ヴェゼリー=フランクル 編 諸富 祥彦・広岡 義之 監訳
若き日の姿と思想形成の歩み
 本書は、10代から30代のフランクルが市販の雑誌や学会誌に執筆した記事や論文をフランクルの一人娘のG・ヴェゼリー=フランクルが編さんしたものである。
 ギムナジウムの生徒だったフランクルがフロイト宛てに送った原稿「身振りによる肯定と否定」が「国際精神分析学誌」に掲載されたことや、大学で医学を学び始めたフランクルがアドラーと交流し、「国際個人心理学誌」に「心理療法と世界観」という論文が掲載されたり、早熟なフランクルの活躍の様子が紹介されている。また、学生時代には、ドイツ発祥の青少年相談所をウィーンで開設する活動に精力的に取り組み、多数の相談員と共に、悩める若者たちを救ったことも記されている。
 本書を通じて、このような知られざる若き日のフランクルの姿を知ることができる。これはフランクルという人間の理解を深める上で重要である。だが、本書の意義は、それにとどまるものではない。「フランクルのロゴセラピー(実存分析)は強制収容所での体験から生まれた」という言説が人口に膾炙している。しかし、若きフランクルは青少年相談所や勤務先の精神病院での数多くの臨床事例に基づき、有限な人生こそが人間に生きる意味と責任性を与えるというロゴセラピーの根本をつかんでいた。フランクルの思想形成の歩みを深める上で欠かせないのが本書だといえる。
(3300円 ミネルヴァ書房)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

