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1970年代以降の高等学校工業科の実習 制度と実態・担当教員養成

18面記事

書評

長谷川 雅康 編著
役割変化による影響描き出す

 本書は、高校における工業科教育の教育課程がどのように構成され、それがどのように変化してきたかを、特に「実習」に焦点を当てて論じたものである。工業科を有する高校への調査を繰り返し実施し、おおよそ50年にわたる変化を追跡した研究ならではの、厚みのある記述は圧巻である。
 当然のことながら、工業教育は実社会との接続・関連性が強く、社会や技術の変化(高度化)や、それに対応する人材ニーズへの応答が求められてきた。また一方では高校教育の一環としての位置付け故に、進学率の拡大等とともに変容する高校に期待される社会的役割の影響も受けてきた。最たるものが、工業人材を直接輩出する方向性と、大学等でのより専門的な人材育成に向けた基礎教育を行う方向性とのバランスであろう。本書の厚みある記述は、専門学科単位でもそうした影響が微妙に異なる様子を描き出しており、一口に「工業教育」とはまとめ切れない複雑さを伝えている。
 その上で本書は、具体物に触れることを通じて、社会(実践・実務)との接点となる実習について、実習自体が持つ教育的価値の実現と(工業)教育の一環としての価値・あり方との間にも葛藤を抱えることを提示する。通時的な変化と、それに伴う葛藤の理解を通じて、工業教育と実習の解像度を高め、今後のあり方を考える一助となる一冊である。
(9900円 学文社)
(川上 泰彦・兵庫教育大学教授)

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