ASDを共に生きる 共事者として子どもの<生きる様>をエピソードで描く
13面記事
頼 小紅 著 鯨岡 峻 解説
周囲の人たちの中での育ち研究
障害特性などに焦点を当てることを主にした、これまでのASD(自閉スペクトラム症)研究とは異なり、ASD児に寄り添う「親や身近な他者」を「共事者」と位置付けながら、本人と取り巻く人たちの関係の中での育ちを研究対象とした異色の本である。
第Ⅰ部理論編では「自閉症論の変遷史とASD当事者の語り」を概観し、研究のよりどころとなる「関係発達論」という考え方に言及。関係発達論の方法論としての「関与観察とエピソード記述」について解説している。
この方法は、第Ⅱ部事例編で、ASD児のこども園での約3年間の母親と保育者らとのやり取りを記した「連絡帳」を用いて考察し、合わせて著者が園での幼児の関与観察から「エピソード」を拾い、その「<背景>と<メタ観察>=<考察>を加えて『エピソード記述』を完成」させたものとして具体化する。
「連絡帳」からは「排泄」や「制止」場面などでの幼児の行動、様子を前にした母親の悩みや思い、「関与観察」では幼児の思いを受け入れつつも、保育者らが「教育の働き」とどう折り合いをつけるかなどを取り上げた。
母親の感情、保育者の適切な対応などを「障碍児」の母である著者が考察することによって、幾つもの思いが共鳴する独特の空間を現出させているように感じる。
障害のある幼児に向き合う「共事者」たちに、ぜひ一読してもらいたい。
(3300円 北大路書房)
(矢)

