教育社会学・入門 子どもと学校のとらえ方
12面記事
冨江 英俊 編著
困難の正体を一歩離れて考察
評者が教員免許を取得したとき、在籍校には教育社会学という科目はなかった。現在でも、全ての大学で開講されているわけではない。教育社会学が注目を集めるようになったのは、2000年前後、学力低下論争が起こった頃であり、そして格差が社会問題化した頃である。その後、「教育格差問題」として多くの書籍が刊行され、「親ガチャ」という言葉が流行したのも記憶に新しい。
本書は、大学の教職課程での使用を想定した教育社会学の概説書である。教育社会学は扱う領域が広範であるため、本書も多岐にわたるテーマを網羅している。執筆陣も一部の専門領域に偏ることなく、多様な視点を持つ研究者がそろっている。
第1章の「教育社会学の学問的特徴」に始まり、家族や地域社会の変容、ICTの普及、道徳と規範意識、学校制度、職業教育、教育格差、学校と地域の連携、外国ルーツの児童・生徒、教員の多忙化、学校安全など、それぞれのテーマについて、教育社会学の視点から丁寧に解説されている。
本文中に、「現在の困難さの正体を、一歩離れて眺めるという社会学の見方を取り入れる」という一節がある。格差と分断が顕在化する現代において、教育社会学は教員を目指す者にとって不可欠な視座を提供する。大学における必修化が望まれるとともに、教育に新たな視点をもたらす一冊。
(2750円 ミネルヴァ書房)
(中村 豊・前公益社団法人日本教育会事務局長)

