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社会問題の解決を目指す地理教育 システム思考からさらにその先へ

12面記事

書評

地理教育システムアプローチ研究会 編
宮崎 沙織・泉 貴久・阪上 弘彬・中村 洋介・山本 隆太 編著

ありたい社会 他者と協働で構想

 地理学は「人と人」「人と自然」の両方を扱い、気候、環境、生活、産業、資源、安全保障などさまざまな分野とつながる。だが、その面白さや魅力を生徒たちに伝えられているだろうか。
 本書は、ありがちな「問題の原因を取り除く」ことではなく、当事者意識を持って「社会システムを変革する」問題解決の在り方へのシフトを前提に、「ありたい未来」を意識した地理教育を提唱する。基盤になるのは、問題の全体像を捉え、その複雑性に向き合う「システム思考」と、ありたい社会の姿を描き、他者との協働の中で社会を構想する「デザイン思考」だ。「何のために学ぶのか」という原点に立ち返り、「主体的・対話的で深い学び」にするためのアプローチだと言えよう。
 こうした地理教育にシステム思考がいかに寄与できるかを理論的に提示するとともに、開発された授業プランを中学校、高校で実践した成果を踏まえ、有効性を検証する。理論面は難しく思われるかもしれないが、「デザイン思考」「システムアプローチ」等の用語集もあるのでご安心を。
 地球システムにおいて最も強力な要因はわれわれ「人間」だ。当事者意識と参画で、社会は変えられる。「葛藤をともに解決していくことこそが、社会的結束を生み出す鍵となる」という視点は、地理だけでなく他の学習にも通じる重要なものだろう。
(学文社 2750円)
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)

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