レッジョ・エミリアのアートと創造性 保育におけるアトリエの役割と可能性を探る
13面記事
ヴェア・ヴェッキ 著 森 眞理・刑部 育子 監訳
第一人者が豊かな事例基に探究
本書は、ディアーナ幼児学校の「アトリエリスタ」として、レッジョ・エミリアの幼児教育実践を支えてきたヴェア・ヴェッキ氏による先駆的な探究の記録である。その哲学と豊かな事例が惜しみなく織り込まれており、邦訳に際しては訳者チームが4年をかけて訳語の襞まで磨き上げた労作となっている。アトリエリスタとは、この教育を先導した教育学者、ローリス・マラグッツィが、学びにおける美的次元の重要性を鼓舞するべく、どうしても保育者と並べて配置すべきと考えた、子どもを芸術的にまなざす教育者の役割を指す。物事の間をつなぎ、まだここにないものを予感するのが、美の役割である。生誕地に由来するのか、この教育の根底には、目的合理性を超えていく美の力への深い信頼がある。
マラグッツィは、教師という職業は「驚きを発見する専門家」のためにあると述べたという。大人が介入し過ぎれば、子どもからあふれ出る無限の問いや、遊びの発明の力は奪われてしまう。教師に求められるのはただ、子どもたちの「100の言葉」のありのままに耳を傾けることである。本書で述べられる教師の姿には、子どもの学びの原風景で今まさに成りゆこうとするものへの、深い敬意と息をのむような驚きがある。それは保育のみならず、昨今小中高で模索される学びに対し、迸る生命力に満ちた問いを投げ掛けるものだろう。
(4620円 北大路書房)
(井藤 元・東京理科大学教授)

