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白珠を我は知りしか

13面記事

書評

梶田 叡一 著
人間的成長目指す教育の道しるべ

 本書は長年、「人間教育」の実現を訴え、国の教育政策のブレーンとしても活躍してきた心理学者の著者が、これまで歩んだ精神形成の道のりをつづったもの。第一部「わが精神形成を省みる」は、恩師や先人たちとの出会いや交流のエピソードなどを通して語る随筆。第二部「わが想いを語る」は、3人の研究者(浅田匡氏、田中博之氏、諸富祥彦氏)と「人間教育とは何か」「自己を育てる教育の在り方とは」「『我の世界』と『我々の世界』を生きる」をそれぞれテーマにした語らいの記録である。
 書名は、『万葉集』巻六に収められている旋頭歌「白珠は 人に知らえず 知らずともよし 知らずとも 我し知れらば 知らずともよし」が出典。著者は高校生の頃からこの歌に惹かれ、深く共感していたが、傘寿を越えた最近は、歌の後半部分「白珠の真価は、人は知らなくても私が知っていたなら、知られなくてよい」が特に頭に浮かんでくるという。
 著者の「人間教育」の土台になっているのはライフワークの「自己意識研究」であり、それが生き方の心理学、内面性の教育を貫く。すなわち歌にいう「我し知れらば」の中身に関わる問題、自分自身の実感・納得・本音の世界にほかならない。
 混沌とした時代の中で、将棋の駒ではなく指し手になる人づくり、人間的発達・成長のための教育の道しるべを明確に示す、教育関係者必読の書である。
(2860円 鳳書院)
(規)

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