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通貨を学べば、世界が見える~海外研修に向けて、通貨や為替の基礎知識を~

21面記事

企画特集

出前授業の様子

東京都立国立高等学校×トラベレックスジャパン

 東京都立国立高等学校は12月、ボストンへの海外研修を控えた生徒を中心に通貨や為替の基礎を学んでもらうため、外貨両替サービスを手がけるトラベレックスジャパン(株)を招き、産学連携による特別プログラム「通貨を学べば、世界が見える」(出前授業)を実施した。当日は、1年生を主とした40人以上の生徒が参加し、国際社会を理解するうえで欠かせない”通貨“を切り口として、経済、歴史、異文化コミュニケーションを学ぶ貴重な機会となった。

異文化コミュニケーションの大切さを指南
社会で求められる存在=希少性

 高校では「総合的な探究の時間」を中心に、社会課題の発見と解決に向けた学習が重視されている。実社会に触れる活動は、生徒が自分の興味・適性を見つける上で不可欠であり、民間企業との連携を取り入れる学校も増えている。
 こうした取り組みの一環として行われた、トラベレックスジャパン(株)の大谷淳社長による「通貨と国際経済」をテーマにした講義では、貨幣の歴史から為替レートの仕組み、さらには海外でのコミュニケーションのコツまで、多岐にわたる話題が取り上げられた。
 授業の冒頭、大谷社長は「どうやったら社長になれると思いますか?」という問いを投げかけ、生徒の関心を一気に引きつけた。自身の経験を踏まえ、「いつ声がかかっても動ける準備をしておくこと」が重要だと語る。
 その軸となるキーワードが「縁」と「運」である。縁は、積極的に行動することで広がり、運はコントロールできないものの、動き続ける人のもとに巡ってくるという考え方だ。さらに、朝活を続ける人(約13%)、習慣的に読書をする人(約15%)、TOEIC受験に挑戦する若手社会人(約13%)などのデータを示しながら、「どんな分野でも上位15%に入る努力を続けることが、結果につながる」と強調した。
 また、一つの分野だけでなく、複数の領域で”上位15%“に入れば、その組み合わせによって希少性は大きく高まり、社会で求められる存在になれると説明。キャリア形成の面でも、近年は学歴より「学び続けているかどうか」が重視される傾向が強まっているとして、「今は”学歴より学習歴“の時代。自分が心から楽しいと思える専門分野を見つけ、そこで希少性を高めてほしい」と、生徒たちに継続的な学びの大切さを伝えた。

ビジネスの原点は「交換」

 講義の本題である「通貨と国際経済」では、まずエジプト時代の市場で物々交換をする場面のイラストを示しながら、ビジネスの出発点について説明した。ビジネスとは、人と人が物やサービスを「交換」し合い、互いの課題を同時に解決する行為だと位置づけた。
 ただし、物々交換には「自分の欲しい物を、同時に自分の持ち物と交換したいと思う相手を見つける」という不便さがある。こうした課題を解決したのが貨幣の登場であり、貨幣には<交換の手段><価値の尺度><価値の貯蔵>という3つの基本的な役割があることを丁寧に示した。
 続いて、大谷社長は通貨制度の変遷をわかりやすく解説した。まず、自国通貨の価値を金によって保証し、一定量の金と自由に交換できる仕組みである「金本位制」が始まったこと。その後、米ドルが金との交換を保証する「ドル金本位制」に移り、さらに1971年のニクソン・ショックを契機に、国の信用を基盤とする「管理通貨制度」へと移行した流れを、画像生成AIで作った動物キャラクターを用いて視覚的に示した。
 特に生徒たちが関心を寄せたのは、「なぜ貨幣が信頼されているのか」という問いだった。大谷社長は、それに対し「貨幣の価値は国の信用によって成り立っている」という本質をやさしく説明し、生徒たちの理解を深めた点が印象的であった。

為替はなぜ「ドル」に大きく左右されるのか

1ドル紙幣から歴史を読み解く様子

 後半の「為替の仕組み」では、円高・円安を例に、為替レートを動かす主な要因として「日米の金利差」と「マネタリーベース(通貨供給量)」が紹介された。実際のチャートを示しながら、円相場がどのような影響を受けて上下するのかが具体的に説明された。
 特に強調されたのは、世界で最も広く使われている”基軸通貨“が米ドルであるため、日本の為替相場もドルの状況に大きく引きずられるという点である。
 さらに、日本人は海外で得た資金を円に戻して管理する傾向が強いが、インドなどでは「どの通貨・地域に資金を置くのが有利か」を常に判断する習慣が根づいているコミュニティもあり、為替リスクへの感覚が国や文化で大きく異なることを挙げた。
 また、アメリカには日本銀行のような単一の中央銀行は存在せず、「連邦準備制度(FRS)」と呼ばれる仕 組みがその役割を担っている。中でも、金融政策の最終決定を行うのが「連邦準備制度理事会(FRB)」であることを解説。授業では生徒一人ひとりに1ドル紙幣が配られ、そこに隠された”13“という数字の意味や、偽札対策として始まったシークレットサービスの歴史など、知ることで世界の見え方が変わる知識が次々と紹介された。

異文化交流は「違いを認める」ことから始まる

 最後に、ボストン研修へ向かう生徒たちへのエールとして、大谷社長は「国境や文化を越えて人と関わることは、大きな価値につながる」と語り、「agree to disagree(意見の相違を認め合う)」という姿勢がこれからの国際交流に不可欠であり、今後君たちが異文化コミュニケーションをしていく中で、支えになる大事な考え方になると強調した。
 その上で、「現地に着いたら、カフェでも電車でもいい。勇気を出して”Hello“と声をかけてみてほしい。その一歩が必ず、これから歩む自身の人生にとっての財産になる」と生徒たちに語りかけ、授業は温かい雰囲気の中で締めくくられた。

【対談】グローバル時代に求められる「実体験」と「産学連携」

 講義終了後、宮田校長と大谷社長による対談が行われた。テーマは、国際化が進む社会で求められる学びと、学校と企業の連携の在り方。海外での実体験が、なぜ生徒の成長を後押しするのか。その理由が両者の言葉から浮かび上がってきた。

東京都立国立高等学校 宮田 明子 校長
令和5年4月に着任。「ボストン研修旅行」や「マレーシア研修」、国際的視野を養う講演会の実施など、国際教育と探究活動の充実に取り組む。

トラベレックスジャパン株式会社 大谷 淳 代表取締役社長
英国ロンドン発のTravelexグループ日本法人。日本全国の主要空港を中心に60店舗以上で外貨両替サービスを展開。オンライン外貨両替・郵送買取・海外専用プリペイドカード「トラベレックスマネーカード」なども提供している。

社会との結びつきを意識した教育が必要
海外での実体験を人生の原動力に

 宮田 出前授業は、生徒が普段触れることのない専門分野を学べる貴重な機会です。今回は外貨両替サービスのご専門の方が、通貨や為替についてどのような講義をされるのか興味がありました。どのような経緯でこの取り組みは始まったのでしょうか。

 大谷 店舗では、海外渡航を控えた学生の不安や疑問に日々接しています。そこで、企業として金融リテラシー向上に貢献できないかと考えたのがきっかけです。私たちの事業を知ってもらう機会にもなり、社会貢献としても意義があると感じています。学校で金融教育や異文化理解を行う上で、どのような課題を感じていますか。

 宮田 投資シミュレーションなどを通じて、歴史的な出来事が経済に与える影響を学んだり、歴史総合や家庭科などでも金融や経済に触れたりする機会は増えています。しかし、生徒はまだ保護者のお金で生活しているため、実感を得にくいのが現状です。異文化理解も同じで、日本の”謙虚さ“だけでは国際社会では通用しません。自分の意見をしっかり伝える力が必要です。だからこそ、ボストン研修では日本の良さを再発見すると同時に、「自分の当たり前が通じない場」に身を置いて欲しいと思っています。

 大谷 まさにその通りだと思います。海外のカフェで注文するだけでも、最初は思うようにいかず挫折を味わうはずです。でも、その経験を通して、言葉の大切さや自己主張の必要性を学びます。こうした実体験は座学では得られず、将来の重要な財産になります。すなわち、生徒のその後の人生の原動力になると考えます。

 宮田 社会の変化は非常に速く、学校だけでカバーするのは難しくなっています。今日の出前授業のように、企業が持つ最新の知見や社会の動向を教育現場に取り入れる「産学連携」がますます重要になっているとともに、今の社会がどのような人材を求めているのかを知ることは、生徒たちの将来にとって極めて重要です。そうした意味でも、今日参加した生徒たちは、まだ通貨や為替に関する専門知識は浅いものの、素朴な疑問を持って授業に向き合っていたように思います。

 大谷 生徒たちの反応から、経済や為替に対する関心の高さが伺えました。一方、国際化という観点では異文化交流の具体的な方法についての質問が多く、漠然とした不安を抱えていることも伝わってきました。授業後には進路相談をしてきた生徒もいて、自分の経験が少しでも役に立てればと嬉しく思う反面、責任の重さも感じました。社会人として培ってきた経験や失敗談を伝えることで、若い世代が将来を嘱望する助けになれたら。そのためにも、今後もこうした取り組みを続けていきたいと思いました。

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