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子どもたちの可能性を引き出す学校施設へ

16面記事

施設特集

授業内容や学習形態に応じてレイアウトを自在に変えられる「柔軟な空間」が必要だ

 子どもたちの学びを支える「学校施設」は、教育の質を左右する重要な基盤である。近年、学習指導要領の改訂やGIGAスクール構想の推進により、教育現場では「主体的・対話的で深い学び」が重視され、ICTを活用した授業や探究的な学びが定着しつつある。その一方で、全国の公立学校施設の約6割が築40年以上を経過し、老朽化が進行しており、安全・快適な環境を確保しつつ、新しい学びのスタイルに対応した空間づくりが急務となっている。そこで、本特集では次世代の学びを拓く「学校施設の新たな姿」を3つの視点から考えた。

主体的な学びを促進する空間設計と安心・安全な環境整備を

1.「次世代の学びを拓く舞台」として捉え直す~実社会と接続する学びを可能にする施設整備を~

 現在、全国の学校施設では、既存校舎の老朽化改修とともに、少子化による統廃合や他公共施設との複合化、小中一貫校への移行、高校教育改革の実現に向けた新増築などが進められている。その中で、今後の教育基盤として大事になるのが、子どもたちが未来社会を生き抜く力を育む「学びの舞台」となることを前提に、改修・新設を施していくことにある。
 なぜなら、グローバル化やAI・デジタル技術が急速に進展し、将来予測が困難となる中で、教育には実社会と接続する学びや変化に柔軟に立ち向かうスキルを授けていく必要があるからだ。すなわち、知識伝達型ではない、自ら考えて検証し、課題解決していく姿勢や能力になる。
 そのために重要になることの一つが、デジタル人材や理数・情報分野の専門人材を育成するための「実験・探究型教室」や「メディアラボ」の導入といえる。大型モニターや電子黒板、3Dプリンター、センサー教材などを活用したSTEAM教育環境が整うことで、子どもたちは仮説検証や創造的表現の体験を通じ、学びを社会に接続できるようになる。また、こうした環境の中で、大学機関や民間企業とのプロジェクト研究を実践することで、自身の得意分野を見つけ、将来の進路につなげていくことも可能になる。
 一方で、こうした教育活動を支えるためには、教員の働く環境も同時に整える必要がある。学校教育の質向上に教員の果たす役割が重要になることは、今後も何も変わりはない。だからこそ、執務スペースのICT化や職員室内のコラボレーションエリア化を進めることで、教員同士の連携や教材研究が効率化し、学校全体としての教育力が高まる。学校施設は「教える場」から「共に創る場」へと進化しているのである。

2.多様な学習スタイルに応える学習空間と学校家具

 子どもたち一人ひとりの可能性を最大限に引き出すためには、教育内容や指導方法の充実だけでなく、それを支える学校空間の在り方が極めて重要だ。近年、教育制度や学習環境を取り巻く条件は大きく変化しており、学校施設にはこれまで以上に柔軟性と多様性が求められている。
 2026度から計画的に実施される中学校における35人学級の実現や、小学校教科担任制の拡充は、その象徴的な動きである。少人数学級の導入は、きめ細かな指導を可能にする一方で、教室数の増加や既存校舎の再編といった施設面での対応を必要とする。また、教科担任制の進展により、教科ごとの教材や備品を効率的に管理・活用できる専用スペースの確保や、専門性を生かした学習環境の整備が欠かせなくなっている。
 しかも、GIGAスクール構想によって1人1台端末が普及した現在、教室の役割そのものも変わりつつある。黒板を中心に机を整然と並べ、教員の説明を一斉に聞く従来型の教室配置では、主体的・対話的で深い学びを十分に支えることは難しい。これからの教室には、個別学習、協働学習、探究的な活動など、学習内容や学び方に応じて自在に姿を変えられる「柔軟な学習空間」としての機能が求められている。
 その実現に欠かせないのが、学校家具の工夫である。可動式の机や椅子を導入することで、短時間でグループ編成を変えたり、発表や話し合いの場を設けたりすることが可能になる。家具が固定されていないことで、子どもたちは自ら学びの場をつくり出す感覚を持ちやすくなり、学習への主体性や協働意識の育成にもつながる。
 加えて、ICT機器の活用を前提とした設備環境の整備も欠かせない要素といえる。教室内外における電源確保や配線計画の見直し、高速かつ安定した無線LAN環境の整備、電子黒板や大型提示装置との円滑な連携などは、学習活動の質を左右する重要な基盤である。こうした環境が整うことで、教員と児童生徒双方のストレスが軽減され、授業に集中できる条件が整う。

可動式家具やパーテーションを使って学びやすい空間を演出

子どもに寄り添う学習スペースの設置も

 また、近年注目されているのが、子どもたち一人ひとりの特性や状態に寄り添う「多様な学習スペース」の設置である。静かに集中して取り組みたい児童生徒のための個別ブースや、気持ちを落ち着かせるためのクールダウンスペース、発達特性に応じた支援を行うサポートルームなど、学習空間の多様化は学校づくりの新たなテーマとなっている。これらの空間は、特別な支援を必要とする子どもだけでなく、すべての子どもにとって安心して学べる環境づくりに寄与する。
 学校空間は、単なる「授業を行う場所」ではなく、子どもたちが試行錯誤し、対話し、成長していくための舞台である。学習内容や教育制度の変化に応じて空間や家具を見直し、柔軟に更新していくことは、子どもたちの学びの質を高め、可能性を広げることにつながる。これからの学校施設整備には、教育の在り方と一体となった空間設計の視点が、より一層求められている。

インクルーシブ教育を支える空間づくり

 さらに、学校施設の木質化や自然光の導入、温熱・音環境の改善など、「快適さ」と「温かみ」を兼ね備えた空間設計も注目されている。木材の香りや質感は心理的安定や集中力の維持に寄与し、地域産材を活用することで、地域経済や森林保全への貢献にもつながる。
 併せて、教職員の執務環境の改善も進んでいる。教員用のミーティングルームやオンライン会議対応スペースの整備、休憩や健康管理のためのリフレッシュルームの設置など、働きやすく持続可能な職場づくりが学校施設計画に組み込まれるようになっている。
 すべての子どもが安心して過ごせるためのバリアフリー化も欠かせない。段差をなくすスロープ設置、エレベーターの整備、バリアフリートイレの設置、視覚・聴覚障がい者向けサインの整備など、インクルーシブ教育を支える空間づくりが広がっている。
 学校は「すべての子どもが学ぶ権利を保障する場」であり、その理念を建築として具現化する取り組みが進行中である。文科省も、遅れている校内のバリアフリー化を2030年度末までに着実に整備することを打ち出し、早期の実現に向けて動き出している。
 具体的には、スロープ等による段差解消をすべての学校に、バリアフリートイレを避難所に指定されているすべての学校(総学校数の約97%)に、エレベーターを要配慮児童生徒らが在籍するすべての学校に整備する。
 なお、各学校設置者の取り組みを支援するため、2021年度よりバリアフリー化のための改修事業について、国庫補助率を2分の1に引き上げており、公立小中学校等以外の学校種に活用可能な補助なども設定している。文科省では今後、自治体での取組みの横展開、アドバイザーの紹介・派遣などを行う学校施設のバリアフリー化に関するプラットフォームの構築などを行う予定。これらを活用するとともに、バリアフリー化への一層の取組みを呼びかけている。

3.学校施設に求められる設備や機能~老朽化改修に伴う断熱化・省エネ化の推進~

 全国の学校施設では、築40年以上を経過した校舎が増加し、老朽化対策が喫緊の課題となっている。これまでの改修は、雨漏りや設備故障への対応など、いわば「延命措置」としての修繕が中心であった。しかし近年は、単なる修繕にとどまらず、「快適性の向上」「脱炭素社会への対応」「防災・減災機能の強化」を同時に実現する質的転換が求められている。
 その象徴的な取り組みが、校舎のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化である。太陽光発電設備の導入や高断熱材の活用、自然採光・自然通風を最大限に生かした建築計画により、年間のエネルギー消費量を実質ゼロに近づける学校が全国で増えつつある。文科省や環境省の補助事業を活用し、ZEB化実証校として整備された学校では、光熱費削減による財政的効果に加え、エネルギーの見える化を通じて環境教育の教材としても活用されている点が大きな特長だ。校舎そのものが「学びの教材」となることで、持続可能な社会づくりへの意識を育む場ともなっている。
 こうした省エネ化と並んで重視されているのが、断熱改修による温熱環境の改善である。近年、夏季の猛暑は年々深刻さを増しており、教室内の温熱環境は児童生徒の集中力や健康状態に大きな影響を及ぼしている。特に古い校舎では、断熱性能が十分でないまま、日照確保のために大きな窓が設けられているケースが多く、最上階の教室や西日が強く当たる教室では、夏季にいくら空調を稼働させても室温が下がらないといった課題が顕在化している。
 このため、屋根や外壁への高性能グラスウール断熱材の施工、窓の複層ガラス化や内窓(二重窓)の設置など、建物全体の断熱性能を高める改修が各地で進められている。断熱化により室温の変動を抑え、冷暖房効率を高めることで、エネルギー消費の削減と快適な学習環境の両立が可能となる。結果として、児童生徒が年間を通して落ち着いて学習に取り組める環境づくりにつながっている。
 さらに、断熱化・省エネ化を伴う改修は、自治体にとって中長期的な施設マネジメントの観点からも重要性を増している。老朽化が進む学校施設を個別に対症療法的に修繕するのではなく、断熱性能や設備更新を軸に「将来を見据えた機能更新」として位置付けることで、ライフサイクルコストの最適化が図れるからだ。初期投資は一定程度必要となるものの、光熱費や維持管理費の削減効果を積み上げることで、長期的には財政負担の平準化につながる。
 また、国の補助制度や交付金を活用する上でも、断熱化・省エネ化は計画的な施設整備を進めるための重要な切り口となる。ZEB化や環境配慮型改修、防災機能強化といった政策目的と整合させることで、複数の事業を一体的に整理しやすくなり、採択に向けた説明力も高まる。

トイレ&洗面台の衛生環境の向上を

 加えて、コロナ禍を経て、学校施設における衛生環境の重要性も改めて認識された。インフルエンザや感染性胃腸炎など、さまざまな感染症が季節を問わず流行する中、トイレや洗面台といった水まわりの改善は、子どもたちの健康を守る上で欠かせない要素となっている。
 多くの自治体では、耐震化工事を終えた後の優先課題として、トイレの洋式化や清掃性向上を位置付けており、抗菌・抗ウイルス仕様の便器や床材、非接触型水栓、自動洗浄システムの導入が進められている。これにより、児童生徒が抵抗なく利用できる環境が整い、日常的な衛生習慣の定着にも寄与している。
 これらの改修や新築事業は、地域の建設業者や木材産業、設備メーカーとの連携によって進められるケースが多く、地元材の活用や雇用創出といった波及効果も生んでいる。学校施設の整備を通じて、教育と地域社会が協働し、持続可能な社会基盤を築いていく動きは、今後ますます重要性を増していくだろう。

教育施設の未来像をどう描くかが問われている

教職員の執務環境の改善も重要なテーマ

 次世代を担う子どもたちが安心して学び、教職員が力を発揮できる学校環境の整備は、教育の根幹を支える投資である。だからこそ、これからの学校施設は、ICTや環境技術を融合した「学びの拠点」であると同時に、地域の防災・福祉・文化活動を支える「地域の核」としての役割が期待されているのだ
 文科省も、こうした点を踏まえ、「2026年度概算要求」および「2025年度補正予算」では、新しい時代の学びを支える安全・安心な教育環境の実現に向けて、学校施設の整備に関する予算を大幅に拡充して提示している。
 「学びの質」と「空間の質」は表裏一体であり、教育施設の未来像をどう描くかが、わが国のこれからの教育の方向性を左右するといっても過言ではない。学校施設を「次世代の学びを拓く舞台」として再定義し、教育と建築の力を融合させた新たな学校づくりが、いま全国で始まっている。

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