ウェルビーイング向上のための学校施設づくり
17面記事
「学校環境」が子どもの学習意欲や心身の健康性向上に寄与する
学校生活を含めた快適な環境を創造する
学校施設における教科教育・学習を行う学習空間は、一斉授業型・専用教室にオープンスペースが加わり、現在ではICT活用を前提とした個別最適化や協働的な学びが可能になる場づくりへと変遷をたどっている。また、その間には特別支援教育や小中一貫教育への対応があり、近年では不登校特例校(学びの多様化学校)や日本語指導が必要な子どもの教室(国際化教室)といった取り組みも進められるようになっている。
その上で、今日求められているウェルビーイングな学校施設とは、学びの環境としてだけでなく、児童生徒や教職員一人ひとりが満ち足りた学校生活を送るために質的向上を図ることにある。
文科省は、そんなウェルビーイング向上のための学校施設づくりにおいて、5つの観点を提示している。
1.共創:学校と地域、保護者などが協働して施設づくりに関わることで、空間に愛着を持ち、教育活動への参加意識を高める。
2.生活:避難所としての機能確保や、プライバシーに配慮した更衣室の設置など、多様な人々の生活の質を高める配慮がなされている。
3.学び:図書室のレイアウト変更や、ハイスペックPC・3Dプリンターを備えた「ラボ」の開設など、子どもたちの探究的な学びを支援する環境を整備している。
4.環境:温かみのある暖色系の照明を配置したり、地元産材を活用した木造校舎を新設したりするなど、快適で心地よい空間づくりを進めている。
5.安全:全ての児童生徒が安心して過ごせるよう、施設の安全性や避難経路の確保が重視されている。
これらの事例は、物理的な空間設計だけでなく、利用者である児童生徒や地域住民の参画を通じて、持続的な幸福や生きがいを感じられる場としての学校施設を実現しようとするものとなる。
オープンスペースと多様な学びの場づくり
その中で、東京都が進めるウェルビーイングな学校施設の代表的な事例となる板橋区立板橋第十小学校は、子どもたちの学習意欲と主体性を引き出す学校空間の工夫が進められている学校である。近年では、板橋区が推進する「ウェルビーイング向上のための学校施設づくり」のモデル校の一つとして、国内外の専門家による視察対象にもなっている。
同校では、従来の教室中心の配置に加え、オープンスペースの有効活用を進めることで、児童の居場所が増え、学びのスタイルが多様化している。具体的には、学級ごとの教室とは別に設けられた共用空間を、グループ活動や発表、休み時間の交流スペースとして柔軟に使い分けており、子どもたちが自ら選択して学習や交流ができる環境となっている。こうした空間は、「学校らしく見えない教室」としての機能も担い、従来の一方向型の教室では実現しにくかった、対話的学びや協働的学習の場として評価されている。
また、職員室ではフリーアドレスやワークスペースの改造が進み、教員の働き方改革にも寄与している。これらの取り組みは、子ども・教員双方のウェルビーイングを高める施設整備として注目されている。
さらに、同校の教室や空間改修の試みでは、安心して過ごせる居場所づくりや、学習活動の多様なニーズに対応するスペース設計が重視されており、地域や他校への波及効果も期待されている。こうした空間改革を通じて、板橋第十小学校は、教育の質と子どもたちの暮らしやすさを同時に高める、次世代の学校施設モデルとなっている。
小中一貫の学びを支える一体型施設
八王子市立いずみの森義務教育学校は、小学校と中学校を一体化した義務教育学校として、2010年代後半から新校舎整備が進められた先進的な学校である。1年~9年までを一つの校舎で学べる構造とし、9年間の教育の連続性と学びのつながりを施設面から支えている。学校の基本理念には「子どもたちと地域が共に成長し、愛され続ける学校づくり」が掲げられ、市街地にありながら自然と調和する環境が確保されているのも特色だ。
同校の施設は、ユニバーサルデザインや安全安心といった基本設計に加え、ICT環境の充実が図られている。全教室にはプロジェクターやWi―Fi環境が整備されており、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末が日常的に学習へ活用されている。
施設計画には、異学年同士の交流や協働活動を促進する空間デザインも取り入れられている。廊下は幅広く設計され、多目的スペースとして活用できるほか、異なる学年の児童・生徒が自然に交流できる動線やスペース配置が工夫されている。また、特別支援教室や通級指導教室など、児童・生徒一人ひとりの多様な学習ニーズに対応する教育支援の仕組みも整っている。難聴や言語等に配慮した支援教室が設置されており、誰もが学びやすい環境づくりが進められている点も大きな特徴だ。
学習空間としてだけではなく、地域のコミュニティ施設としての機能も意識されている。学校運営協議会や地域関係者との連携が進められ、地域全体で子どもたちの成長を支える仕組みがつくられている。こうした一体型の施設・運営は、単なる学びの場を超えて、子どもたちの社会性や地域連携を育む重要な拠点となっている。
学校施設における「ウェルビーイング」の視点
両校に共通するのは、空間設計が教育の質向上や児童生徒の主体的な活動を支える役割を果たしている点である。板橋第十小学校はオープンスペースや柔軟な学習空間を通じて、授業や休み時間における選択肢を拡張している。一方でいずみの森義務教育学校は、小中一貫の教育実践を支える一体型校舎の多機能性とICT活用によって、学びの連続性と多様な支援に応えている。両校の取り組みは、学校空間が単なる「場所」から、子どもの成長や交流、防災機能、地域連携などを支える「総合的な環境」へと進化していることを象徴しており、今後の学校施設整備の一つのモデルといえる。

