第56回「博報賞」博報賞 受賞 小林陽介氏活動レポート
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左から小林陽介校長、筆者
「博報賞」は、児童教育の現場を活性化し支援することを目的として、公益財団法人博報堂教育財団が主催する賞です。全国の学校や団体、教育実践者が取り組む創造的な教育活動を表彰し、その価値ある実践を社会に広めることで、日本の教育全体の質の向上に貢献しています。
各受賞者には賞状と副賞が贈られ、とくに優れた取り組みには文部科学大臣賞も授与されます。今回は、第56回「博報賞」(日本文化・ふるさと共創教育領域)を受賞した小林陽介氏(北秋田市立義務教育学校阿仁(あに)学園校長)の取り組みをご紹介します。
提供/公益財団法人 博報堂教育財団
郷土資料集「きらり☆きたあきた」の作成・推進・活用によるふるさと教育の充実
群馬大学 郡司明子
新感覚で編まれた郷土資料集
皆さんの学校では地域/郷土資料集をどのように活用されているだろうか。ここでは郷土資料集「きらり☆きたあきた」の作成・推進・活用を通じたふるさと教育の充実において第56回「博報賞」(日本文化・ふるさと共創教育領域)を受賞された秋田県の小林陽介氏(北秋田市立義務教育学校阿仁学園校長)の学校訪問から、ふるさとに誇りをもつ人材育成のあり方を探りたい。
「きらり☆きたあきた」には、少子高齢化と人口減少が進むふるさとを教育で勇気づけ、地域は「きらりと光る魅力にあふれている」という思いを子どもたちに育みたいという小林校長の熱意が込められている。従来の形式に縛られない自由で明るいビジュアル、手に取る喜びとわくわく感に満ちた新感覚の郷土資料集である。子どもから大人まで、学習のみならず家族でドライブなどにも活用してほしいと、教科書と雑誌の中間をイメージして作成された。表紙には北秋田市の魅力を描き込んだイラスト、表紙見開きには「知れば、もっと好きになる」というキャッチコピー。ここには「知る=見方が変わる」という理念、さらに、白銀の雪山を歩む人が写る写真には、知るだけでなく実際にその場に足を運ぶことの重要性をメッセージとして込めたという。小林校長は、教育委員会在籍時から地域のさまざまな方の協力を集結して資料集作成2年、活用に向けた推進2年、中学校および義務教育学校における活用3年、計7年間にわたり、魅力的な教育活動を展開されてきた。

郷土資料集「きらり☆きたあきた」
その実際に触れるべく令和8(2026)年1月、秋田市内から車で1時間半、水墨画のような雪景色を眺めつつ現地に向かった。外気温はマイナス5度、雪深い山道を抜けると義務教育学校阿仁学園が見えた。受賞者の小林校長はじめ、出迎えてくれた先生方の笑顔と元気な声が響き渡る。校内の壁や空間、至る所に学習過程や成果が可視化され、ここに学び、生活する人々の温もりが感じられた。小林校長発信の掲示板(学校内外の話題やなぞかけ等)もあり、まさに郷土資料集にみる地域の魅力同様、阿仁学園の豊かさが「見える」ようになっていた。
郷土資料集「きらり☆きたあきた」活用とその広がり
この日は、「きらり☆きたあきた」の活用場面や資料集に基づく発信のあり方に学ぶことを楽しみに授業を参観した。5・6年生の教室では「きらり検定」に挑戦、子どもたちはタブレットで地域に関する知を深める問いに挑む。もてる知識で答えつつ、難易度の高い問題はじっくり資料集で答えを探す。先生の助言から、索引を活用してページをめくり解答する子もいる。続いて1・2年生は「きらりクイズ」の時間、資料集の関連画像をモニターで共有し、地域にまつわるクイズを楽しむ。その後、全校児童生徒(59名)が約10名ずつのグループになり、資料集をもとに自分たちで作成した「かるた」に親しんだ。「なんという、マタギことばで幼い子」という読み手の子どもの声に「はい!」と勢いよく手が伸びる。手にした絵札を皆に見せ「イカラヒダキ」と答えると、「おーっ」と周りでかるたを囲む子どもたちが共感的に反応する。後期生(中学生)は絵札を手にした前期生(小学生)を褒めたたえ、近くでワイワイ応援する先生方からも拍手が上がる。仲が良い、そして、みんなにこやかである。ここに2次元(平面)だった資料集の知が3次元(立体)として立ち上がる仕組みがあった。資料集の内容を読み札=問いに要約し、絵札=応答で絵(イメージ)的に解釈する。それを声に出し、身を乗り出して手に取り、みんなの目で確認し合う。資料集の内容が立ち上がり子ども一人ひとりの中に生きた知として浸透していく。

資料集をもとに作成した絵札を囲む「ふるさとかるた」
さらに、このあと後期生生徒会による「地域活性化プロジェクト」のプレゼンテーションを参観し、資料集に凝縮した知はより動きを伴い、学校、そして地域と共に在ることを確信した。秋田活性化中学生選手権最優秀賞受賞の報告会である。そこには後期生全員、教員、学校を支える地域の方々も参加されていた。発表内容は、秋田内陸線(各駅)のきらりと光るものごとの取材を通じた、地元で楽しめる魅力的な活動の提案であった。舞台上の5名は、ふるさとの豊かな自然・食・人・伝統を躍動感あふれる声と体全体で表現し、生き生きと地域の良さを伝えている。この起点となるのが「きらり☆きたあきた」である。「資料集は地域の魅力を発信するネタ帳です」と小林校長。発表内容の種を地域愛に満ちた資料集から得る。おのずと発表を通じて地元への愛着とそのきらめきを発信する気合が高まる。小林校長によると、資料集を活用したアウトプット主体のふるさと教育を通して、子どもたちの発表力が格段に高まったという。上記選手権最優秀賞連続3冠の輝きも、その状況を物語っている。
共感的な応答から受け止め合う温かな関係性
発表を受け止める側も実に素晴らしい視聴者であり参加者である。舞台からの呼びかけに、「おおおー」という掛け声と共に足を踏み鳴らし、絶妙な間で発表に合いの手を入れる。この発表は舞台と会場の熱い掛け合いで成り立っている。こんなにも純朴で熱量の高い中学生が、いま、この日本にいるのか!と目頭が熱くなった。呼びかけに対する共感的な応答性。感想を述べ合う場面でも、発言する人に自然と体全体を向けて聴き合い受け止め合う。誰もが、安心して生き生きとその場にいられる空間。「失敗しても温かく見守ってもらえたことがうれしかった」という発表者の言葉には、信頼の中で学べる関係性や環境のあり方が反映されている。近年は、地域を超えてこの阿仁学園に通う子どもたちもいるという。

「地域活性化プロジェクト」プレゼン発表の様子
報告会に続き、地域活性化プロジェクトを通じて感じたことを「語り合う会」では、5~6名で輪になり、A3用紙に語りの要点を記入して見合い、互いの声に耳を傾け合っていた。そこには地域の方の姿もある。「地域と学校の壁がない」「地域の人の笑顔」「阿仁の愛を叫べ!!」など、地域の愛を受けて自分がここにいる、そして自分自身の中にも地域への愛が息づいている、それらを語り合う声が聞こえてきた。「地域の人が必ず見ていてくれて温かい言葉をかけてくれるから私は毎日学校で頑張れる」という発言もあった。子どもたちの表現を受けた地域の方は、「ここは鉱山の採掘から始まった町。子どもは地域の宝であり、掘れば掘るほど魅力的な人材=きらりと光る原石が出てくる阿仁学園は宝の山です」というお話をされた。ここは雪の中にあっても、地域も学校も、子どもも大人もすべてがあったかい。

地域活性化プロジェクトを通した「語り合う会」の様子
学校と地域の響き合い、その中心に位置付けられる郷土資料集
小林校長が「きらり☆きたあきた」を作成・推進・活用する背景には、過疎化で子どもの数が激減し、小・中学校の統廃合が進む中、ふるさとの活性化を願う地域住民の教育に対する「期待」があった。この資料集は、心ときめく学習材を通じて、知る、その場に足を運び、きらり輝くふるさとの魅力を未来に向けて共有する、という小林校長の思いが詰まった地域への「応答」でもある。それは、子どもたちが郷土資料集を契機に地域の知に学び(インプット)、それらを丁寧に紡いで発信(アウトプット)することに対して、周囲(地域)が真摯に応答(フィードバック)する関係性とよく似ている。こうして、学校と地域が響き合う中でふるさと共創教育は未来に向けて織り成されていく。ここ阿仁学園の根源にあるのは期待と応答による響き合い、それは学校と地域の「響き愛」であり、その中心に郷土資料集「きらり☆きたあきた」が着実に位置付けられ、人々の中で「ふるさとへの誇り」として息づいていることを実感した。
第57回「博報賞」の応募は現在受付中です。応募には推薦者資格を有する第三者(教育長、校長会会長、教育関連団体代表者など)による推薦が必要となっています。自薦はできませんのでご注意ください。
応募締切:2026年6月25日(木)
応募方法:博報堂教育財団のウェブサイトから応募書類をダウンロードし、必要事項を記入のうえご応募ください。
https://www.hakuhodofoundation.or.jp/prize/?utm_source=ad&utm_medium=jep&utm_campaign=2026
