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1年間の留学義務 秋田から世界へ

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10周年を迎えた国際教養大の今

 秋田県という地方に立地しながら「全国区」の大学として知られる公立大学法人国際教養大学。世界に通用する「国際教養―インターナショナルリベラルアーツ」の修得をミッションに掲げ、各大学がグローバル人材育成の対応で導入し始めた「留学」も、同大学では開学当初から1年間の海外留学として義務付ける。提携大学は45カ国・地域の164大学に及ぶ。また、全ての授業が英語、少人数で展開されているのも大きな特徴の一つ。この他、毎年の就職率はほぼ100%、教員採用は3年の任期制、24時間365日開館の図書館など、数多くの特色がある。多くの日本人学生と留学生が大学敷地内で暮らし、また、少人数かつ双方向型の授業、そして、さまざまな教育・生活支援を通じて、学生と教職員が厚い信頼関係を築く。時代を先駆け、今春10周年を迎えた大学の今をリポートする。

TOEFLでクラス分け
能力に応じ「集中プログラム」

 「『帰ってきました』という一言で、学生の成長が見て取れる。留学という経験に勝る教師はいない」と話すのは、国際センター長の磯貝健准教授。民間企業での勤務を経て、大学開設時から在籍してきた教職員の一人だ。
 1年間の海外留学が義務化された大学として、受験生はチャレンジしてくる。だが、入試をくぐり抜けた新入生が全て同じように英語が堪能なわけではない。
 そのため、「英語で学ぶための英語力」の養成に向け、入学と同時にTOEFLITPを受験し、自己の英語力に応じて「英語集中プログラム」(English for Academic Purposes、以下EAP)の各クラスを受講する。
 EAP1のクラスではTOEFLITPの点数が「479点以下」の学生が学ぶ。同様に「480点〜499点」の学生はEAP2、「500点以上」の学生はEAP3。新入生でも帰国子女など長期間英語教育を受けた経験のある学生やTOEFLITPが「550点以上」の学生は、「大学教育への橋渡し」に位置付くEAPブリッジ・プログラムを受講できる。本年度、春学期のクラス編成は、EAP1が1クラス、EAP2が2クラス、EAP3が6クラス、EAPブリッジ・プログラムが1クラスといった内訳である。
 「リーディング」「ライティング」「リスニングとスピーキング」に、大学の授業のために使えるIT能力を育成する「コンピュータベーシック」、TOEFLの受験準備などが主な学習内容。クラスによりレベルは異なる。プレゼンテーション、ディスカッションが手だてとなって、批評、討論する機会がふんだんにあり、英語による高度なコミュニケーション能力を身に付けていく。
 EAPでは、カリキュラムに「自主言語学修」が位置付けられているのも特徴だ。例えばディスカッションで使う資料の準備、授業外に週3時間以上の英語での多読などの課題に対して、学習の場として活用しているのが「言語異文化学修センター」。入り口付近には学習時間を記録できるタイムカードが設置され、時間の蓄積が分かる。視聴覚教材から紙媒体の教材など、用意された資料は多種多様。スピーキングを自習する個別学習ルームや、DVDを視聴するところ、参考書を広げ学べるところ、仲間でディスカッションできるところなど、こちらもバラエティーに富む学習スペースが用意されている。
 EAPを終えるころには、授業で宿題の範囲も理解できなかった学生が、留学生たちとディスカッションをできるようにまでなる。「毎日が英語漬け」の環境が学生たちを鍛えていく。

海外から帰国した学生
留学生との議論対等に

 「英語集中プログラム」(EAP)を修了した学生が進む次のステージは「基盤教育」(Basic Education)である。社会科学、芸術・人文科学などの他、学際研究、日本研究といった分野・領域から科目を選択できる。同大学では、英語以外にもう一カ国語の学習を奨励しており、世界の言語と言語学などの分野・領域もある。
 おおむねEAPを終えた1年次の後半から履修は始まるが、英語で話すスピードや、使う単語などは、目の前の学生を見ながら教員らが工夫している。ただ、「専門科目や日本研究など、留学生が受講しているものは、双方の学生に満足してもらわないといけない」(磯貝センター長)と、教員の力量も問われるところだ。
 基盤教育で学びながら、その後の専門教養教育として設定されている「グローバル・ビジネス課程」「グローバル・スタディズ課程」の選択を視野に入れる。
 そして、多くの学生は2年次冬から3年次秋にかけて海外留学していく。全ての専任教員はアカデミック・アドバイザーとして、15〜16人の学生を担当しており、留学先大学の選択から留学中の単位をどう確保するかを相談する。その目安は「30単位」。日本の科目とのマッチングに加え、現地へ渡航した後に、実際には履修予定科目が開講されないなど不測の事態が生じた際のバックアッププランも必須にしているという。
 留学先の希望は第6順位まで提出してもらう。この時点で学生間の競争は始まっている。提携校が求めるレベルと、自身の英語力、学力、志望動機の明確さなどによって、留学先は決まっていく。行き先の傾向はアメリカ4割、ヨーロッパ4割、アジアが2割といったところ。毎年、約200人が留学し、厳しい環境を経験する。留学中のサポートは担当教員によるメールでのやりとり、国際センターの支援、留学先の支援セクションや担当アドバイザーによる支援など、問題を抱えたとしても、それを自ら発信できれば、解決できる体制にある。
 年に1人か2人は途中で断念する学生はいる。ただ、途中帰国した場合でも、1年間の留学が義務化されているため、時期をかえて再チャレンジしていく。
 帰ってきた学生たちの成長を、磯貝センター長は「授業では留学生に臆することなく、ディスカッションに参加する。課題を出されてもうまくこなす。中には、教員よりも英語がうまくなって帰ってくる学生もいる」と話す。
 国公立で最も高いという授業料(69万6千円)であっても、留学先大学の授業料は免除され、日本学生支援機構奨学金や学内の奨学金などの経済的支援も充実している。

「協働課題解決」軸に
全人教育につなぐ
地域交流、積極的に参加

 大学の立地は、秋田空港から車で約10分。自然環境に恵まれるが、周囲にコンビニや民家はない。新入生は全国各地から入学してくる。入学すると、学生寮で1年間生活することが義務付けられ、2年次以降も学内の学生宿舎で暮らす学生が多く、学内居住率は約9割に及ぶ。
 必然的に学内で過ごす時間が長くなるため、そうしたライフスタイルに対応した学習環境も充実している。
 例えば、秋田杉を使い、その意匠から建築関係の賞を多数受賞する図書館は、24時間365日開館している。図書館には、約7万冊の蔵書があり、そのうち洋書が7割を占める。図書館での課題学習は学生たちの日課になっている。コンピュータ室も24時間自由に利用が可能だ。
 また、大学そのものが多文化社会を形成する。専任教員の約6割を外国人教員が占め、26カ国・地域からやってきた留学生はキャンパスにいる学生全体の5人に1人に及ぶ。多文化からの刺激には事欠かない。
 学生たちは、留学生と共に、小・中学校の児童生徒との交流、地域の伝統行事への参加など、地域・社会貢献活動に積極的に取り組む。
 約50あるクラブ・サークルも人間関係や組織・社会への適応力を養う場になる。複数のクラブ・サークルを掛け持つ者も少なくない。
 学内で大手企業などを招き実施する「就職セミナー」など、キャリア開発センターが就職活動を後押しし、毎年ほぼ100%の実績を誇ってきた。2013年9月には、アカデミックキャリア支援センターを設置し、国内外の大学院への進学支援も開始した。
 「英語ができるだけで採用するほど企業は甘くはない。ディスカッションやグループワークで発揮できる力や、調整能力など、人間力を見ている」と、磯貝センター長。
 同大学では、文科省の補助金を受けながら、日米協働課題解決型学習(Project Based Learning、PBL)やグローバル・リーダー人材育成のため教育力と学修支援強化に取り組んでいる。今後は、開学10周年を迎えるに当たり策定した「国際教養大学長期ビジョン―秋田から日本の高等教育の景色を変える―」に基づき、同大学の教育が世界水準に達しているかを検証する取り組みや、海外大学との提携関係強化による教育内容の充実を図り、さらなる高みを目指していく考えだ。

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