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「高大接続」時代の高校教育 下

10面記事

高校

求められる「学習評価の充実」

 高校段階での次期学習指導要領では、学習評価の充実が求められている。高大接続システム改革会議の最終報告は「高等学校教育改革の『三つの観点』」の一つに指摘し、学習評価の在り方の見直しや指導要録の改善などの「多面的な評価の推進」を提案した。高校では従前から観点別に学習状況の評価を行うこととされているが、いまだ十分に定着していないことや、高大接続改革に伴って選抜などを通じて多面的・総合的な評価が求められることも背景にある。これまでの「取りまとめ」(案)や文科省が進めてきた調査研究などから、今後の学習評価の在り方を見る。

指導要録の様式改善
評価者の能力向上へ
不十分な観点別評価の現状

 「取りまとめ」(案)では次期学習指導要領の改訂に向け「目標に準拠した評価」をさらに推し進める、としている。
 その際、「観点別評価」について「教科・校種を超えた共通理解に基づく組織的な取組を促す観点から、『知識・技能』『思考・判断・表現』『主体的に学習に取り組む態度』の三観点に整理すること」が検討されている。「主体的に学習に取り組む態度」は、これまでの観点「関心・意欲・態度」を改めたもの。
 高校段階の学習評価については「義務教育までにバランスよく培われた資質・能力を、高等学校教育を通じて更に発展・向上させることができるよう、指導要録の様式の改善や教員の評価者としての能力の向上の機会を充実させることなどが重要」などとしている。
 これまで高校部会では、学習評価をめぐってもさまざまな議論が交わされている。
 高校での学習評価の現状を踏まえ「キャリア・ノートやポートフォリオタイプのツールを導入し、学びのプロセスを評価の対象とし、それを見取ることが重要だというメッセージを伝えることが必要」などの提案や、「教員の本来業務も、教えることではなく、評価をしてアドバイスをして伸ばしていく、その自立を支援する役割を果たすことだと捉えることもできる。様々な授業改善をとおして、そうした取組を促していくことが必要」などと指摘した。
 学び方も変わることを見通し「授業がアクティブ・ラーニング型に進化していく中で、評価も、アクティブ・ラーニング型の授業で培った力を使い、テストで活用型の問題が解けるか否かで判断をするということはあり得るのではないか」などの意見も挙がった。
 学習評価充実のための体制整備としては、クラスサイズにも言及。「学校では40人の生徒が相手となる。生徒に対する評価を人格形成やこれから何を目指すのかということも含めて多面的にフィードバックを行っていくには、相当の時間と労力を要するもの。評価者訓練においても非常に難しい要素があり、それを熟達させるには労力と時間も要する。導入にはステップ・バイ・ステップの方式を念頭に置いて対応する必要がある」
 その一方で、評価者の訓練については「評価を通じて子供たち一人一人が成長していけるような取組が今の高等学校の中でどの程度行われているのか。また、今までの単純に点数の絶対評価だけではない、ルーブリックやポートフォリオ評価など、評価の仕方が多様になって来る中、評価者訓練のようなものをどのように行っていくのか」などの意見が出ている。

全日制・学習評価の実施状況(平成26年度実績、文科省調べ)

観点別学習状況の評価の実施状況
観点別学習状況の評価の実施状況

観点別学習状況の評価の実施方法
観点別学習状況の評価の実施方法

観点別学習状況の評価の観点別実施状況
観点別学習状況の評価の観点別実施状況

学習評価を踏まえた学習指導の改善への組織的な取組状況
学習評価を踏まえた学習指導の改善への組織的な取組状況

パフォーマンス評価やルーブリックを活用
多様な学習成果評価研究から

 文科省では既に高校での多様な学習成果の評価手法に関する調査研究に着手し、国立大学や都道府県を中心に公立高校などと研究を進めてきた。
 例えば、平成27年度の事業成果から見る。

愛知県教委の研究
 愛知県教委を中心にした「課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力、主体的行動力、構想力及びコミュニケーション能力等の育成に向けての教科の特性を生かした評価手法に関する実践的研究」。愛知県立惟信高校(英語)、県立一宮南高校(理科)、県立日進西高校(国語)、県立吉良高校(地理歴史、公民)、県立蒲郡高校(数学)を調査研究校にして取り組んできた。
 研究したのは教科の特性を生かした評価手法の開発や、評価の妥当性、信頼性の検証などである。
 具体的には「課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力、主体的行動力、構想力、そしてコミュニケーション能力の育成を主眼として、生徒の学びの現状を捉えた上で目指す生徒像をそれぞれ設定し、学習到達目標を『生徒が身に付ける力』として具体的に掲げ」た上で、主体的・協働的な学習活動(アクティブ・ラーニング)を導入し、目指す生徒像の実現に向けて、教科の特性を踏まえた学習活動および評価方法を検討することや、パフォーマンス課題とルーブリック(評価基準表)から成るパフォーマンス評価などを導入して、その成果により可視化された生徒の学力を「ルーブリック」によって解釈する、また、学習成果の計画的な記録に基づくポートフォリオ評価も試みる。
 「パフォーマンス評価」は「論説文やレポート、展示物といった完成作品(プロダクト)や、スピーチやプレゼンテーション、協同での問題解決、実験の実施といった実演(狭義のパフォーマンス)を評価」すること。
 また、「ルーブリック」は「成功の度合いを示す数レベル程度の尺度と、それぞれのレベルに対応するパフォーマンスの特徴を示した記述語からなる評価基準表」、「ポートフォリオ評価」は「児童生徒の学習の過程や成果などの記録や作品を計画的にファイル等に集積。そのファイル等を活用して児童生徒の学習状況を把握するとともに、児童生徒や保護者等に対し、その成長の過程や到達点、今後の課題等を示す」もの(いずれも教育課程企画特別部会「論点整理」補足資料から)。
 その上で、評価結果を生徒へフィードバックして、その後の学習に役立たせたり、教師の学習指導の改善につなげたりできるように、教科担当者が協力して研究を推進する「指導と評価の一体化」のチームとしての推進の実現を目指した。
 例えば、一宮南高校では、いずれも第2学年で「水平投射から重力加速度を求める」(物理実験)、「電池の仕組みについて考察する」(化学実験、小課題)、「未知の回折格子の格子定数を導き出そう」(物理実験)、「捕集する水素の体積を決め、必要な試料等の条件を考え検証する」(化学実験)などを実践。
 観察・実験や探究的な活動での「思考・判断・表現」と「観察・実験の技能」について、レポートや自己評価のデータを「関心・意欲・態度」「知識・理解」との関わりを踏まえて段階分けしたルーブリックによって評価する手法を研究した。
 その結果、「分からせる」授業から「できるようにさせる」授業への転換▽計画的な評価による授業の設計▽生徒の自己評価を踏まえた授業改善―などの成果につながり、課題として「多様な評価手法の開発と妥当性に関する検討、キャリア教育を含めた組織的な教育活動への転換、そして、教員の負担にならない指導と評価の在り方を探ること」を挙げた。

大阪府教委の研究
 また、大阪府教委は大阪府教育センター附属高校、府立港南造形高校、府立三国丘高校、府立貝塚高校、府立生野高校、府立大手前高校を調査研究校に「評価が難しい多面的な資質・能力についてその評価手法及び評価指標の構築」を研究してきた。
 その一つ、スーパーサイエンスハイスクール、府立大手前高校が研究したのは、2年文理クラスでの学校設定科目、数学の課題研究の「理想(のぞみ)」を使い、探究力の育成とその評価方法・評価指標の構築。育成する力は問題解決能力、論理的思考力、創造的な学習態度。
 1年での学校設定科目「まこと」では英語コミュニケーション能力、情報活用能力などを含めたプレゼンテーション能力を育み、2年前期の「のぞみ」から、2年後期の課題研究「サイエンス探究」へとつなげる。
 そのため、「のぞみ」の時間には、数学を題材にしたレポート作成、グループによる研究や発表によって、研究手法の導入や論理的説明力向上を狙う。
 数学レポートの相互評価発表会では生徒の相互評価(ルーブリック(1))を取り入れ、数学課題研究発表会では生徒の評価も加味しつつ、数学観や数学化、数学的推論、コミュニケーションなどを評価観点とするルーブリック((2))を用いた。その後、(2)に関しては議論の末、数学観「テーマ設定のセンス」、数学化「高校数学からの踏み出し」、数学的推論「論理的正確性」、コミュニケーション「プレゼンテーション力」などへと修正を図った。
 こうした取り組みを「ルーブリックを作成し、生徒へ提示する『評価と指導の一体化』により、生徒が、明確な目標をもち、学習をルーブリックに照らし、振り返りながら学習活動を進めることができたと考える。また、ルーブリックを作成するためのディスカッションはベテラン、若手の教員間で課題研究のノウハウの共有が可能となり、また様々な思考過程で生徒の『知のアクティブ』が進んだと実感している」と振り返った。
 さらに「今後、進学希望者の多い本校のような学校の『アクティブ・ラーニング』の一つのモデルとして研究をさらに進めていきたい」と総括している。

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