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言語力向上の要、授業改善が急務

10面記事

中教審

高校の国語

 「教材への依存度が高く、主体的な言語活動が軽視され、依然として講義調の伝達型授業に偏っている傾向があり、授業改善に取り組む必要がある」―。中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(平成28年12月21日)では、高校の「国語」について、こう指摘し、科目や内容の見直しを提言した。言語力の向上の柱となる教科であり、その改善は急務だ。答申が描く「国語」の改訂の方向は―。

国際調査で「読解力」低下
増えるネット時間、減る読書

 わが国では義務教育修了段階の高校1年生などを対象としたOECD生徒の学習到達度調査(PISA2012、平成24年実施)での「読解力」の平均得点は高く、小・中学校での言語活動の充実を踏まえた授業改善に一定の評価が与えられていた。
 だが、続くPISA2015(27年実施)での「読解力」に関しては、平均得点は国際的には上位グループに位置付くものの「前回調査と比較して平均得点が有意に低下している」と分析し、警鐘を鳴らした。
 その要因の一つは、PISA2015から調査形式が筆記型調査からコンピュータ使用型調査へと移行したこと。「紙ではないコンピュータ上の複数の画面から情報を取り出し、考察しながら解答することに慣れておらず、戸惑いがあったものと考えられる」とした。
 ただ、機器操作の不慣れにとどまらず、「言葉を取り巻く環境」の変化にも言及した。
 例えば、その一つがインターネット利用による文章との触れ合い方の変化だ。答申では「情報化が進展し身近に様々な情報が氾濫し、あらゆる分野の多様な情報に触れることがますます容易になる一方で、視覚的な情報と言葉との結びつきが希薄になり、知覚した情報の意味を吟味したり、文章の構造や内容を的確に捉えたりしながら読み解くことが少なくなっているのではないかとの指摘」を紹介している。
 高校生のインターネットとの接触時間は年々延びてきている。3月にまとまった28年度青少年のインターネット利用環境実態調査(内閣府)によると、高校生の20・5%がさまざまな機器を活用して5時間以上インターネットを利用していた。また、所有率で9割を超えるスマートフォンを使い、72・1%が2時間以上インターネットを活用する現状にある=グラフ参照。
 一方で、子どもたちの月平均の読書冊数は小学生→中学生→高校生と成長するにつれ、減少していき、特に1カ月の間に1冊の本も読まない「不読率」は高校生で5割を超えるという民間調査(27年調査)がある。
 「思考力・判断力・表現力等の育成を効果的に図るため、引き続き、記録、要約、説明、論述、話合い等の言語活動の充実を図ることが必要」と指摘し、生徒のさまざまな課題を踏まえながら、高校段階では(1)生涯にわたる社会生活や専門的な学習に必要な国語の特質について理解し適切に使うことができるようにする(2)創造的・論理的思考や感性・情緒を働かせて思考力や想像力を豊かにし、多様な他者や社会との関わりの中で、言葉で自分の思いや考えを深めることができるようにする(3)言葉を通じて伝え合う意義を認識するとともに、言語文化の担い手としての自覚を持ち、言語感覚を磨き、生涯にわたり国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う―といった国語に関する資質・能力を育成することを目指す。

高校生のインターネット利用状況
高校生のインターネット利用状況

科目の見直し
必履修に「現代の国語」「言語文化」
選択は「論理」「文学」「表現」と「古典探究」

 国語の科目構成の見直しは、英語や社会などと同様、大幅なものとして提言している。
 生徒の言語をめぐる環境の課題に加え、答申では、高校の国語教育について「教材の読み取りが指導の中心になることが多く、国語による主体的な表現等が重視された授業が十分行われていないこと、話合いや論述などの『話すこと・聞くこと』、『書くこと』の領域の学習が十分に行われていないこと、古典の学習について、日本人として大切にしてきた言語文化を積極的に享受して社会や自分との関わりの中でそれらを生かしていくという観点が弱く、学習意欲が高まらないことなどが課題として指摘されている」と述べている。
 そのため、科目構成の改善を提言した。
 全ての高校生が履修する共通必履修科目としては「現代の国語」と「言語文化」を設定するとした=図参照。
 答申では「現代の国語」について「実社会・実生活に生きて働く国語の能力を育成する科目として、『知識・技能』では『伝統的な言語文化に関する理解』以外の各事項を、『思考力・判断力・表現力等』では全ての力を総合的に育成する」。
 また、答申に至る審議過程では「例えば、目的に応じて多様な資料を収集・解釈し根拠に基づいて論述する活動や、文学作品(小説、随筆、詩歌等)等を読んで、構成や展開、優れた表現などの効果について、言葉の意味、働き、使い方等に着目して批評する活動、根拠を持って議論し互いの立場や意見を認めながら集団としての結論をまとめる活動等を重視することが考えられる」(国語ワーキンググループにおける審議の取りまとめ)としていた。
 「言語文化」について、答申では「上代(万葉集の歌が詠まれた時代)から近現代につながる我が国の言語文化への理解を深める科目として、『知識・技能』では『伝統的な言語文化に関する理解』を中心としながら、それ以外の各事項も含み、『思考力・判断力・表現力等』では全ての力を総合的に育成する」。
 同様に、国語ワーキンググループの審議の取りまとめでは「特に、古典(古文や漢文)だけでなく、古典に関わる近現代の文章を通じて、言語文化を言葉の働きや役割に着目しながら社会や自分との関わりの中で生かすことのできる能力を育成する指導がなされるよう、示し方に留意する必要がある。さらに、古典や近現代の文章において、言葉を対象化することを通じて我が国の文化と外国の文化との関わりを理解することなどについても、言語文化の一つの側面として扱うことが考えられる。また、指導においては、文語文法の指導を中心とするのではないことに留意する必要がある」と詳述した。
 選択履修科目の見直しでは、創造的・論理的思考、感性・情緒、他者との伝え合いといった「言語能力の三つの側面」それぞれを主として育成する「論理国語」「文学国語」「国語表現」の設定を提言。さらに、伝統的な言語文化に関する理解を深めるために「古典探究」を設定するとした=図参照。
 例えば、答申では、「論理国語」は「多様な文章等を多面的・多角的に理解し、創造的に思考して自分の考えを形成し、論理的に表現する能力を育成する科目」と位置付け「主として『思考力・判断力・表現力等』の創造的・論理的思考の側面を育成する」などとした。
 また、共通必履修科目「言語文化」で学んだ「伝統的な言語文化に関する理解」をより深めるため、ジャンルとしての古典を学習対象とする「古典探究」の設定(国語ワーキンググループにおける審議の取りまとめ)を求め、答申では「主に古文・漢文を教材に、『伝統的な言語文化に関する理解』を深めることを重視するとともに、『思考力・判断力・表現力等』を育成する」。

高等学校国語科の改訂の方向性

身近な課題設定・議論・表現
ALの視点で言語活動充実

 次期学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」の実現も求められることになるが、国語科では「アクティブ・ラーニングの視点から言語活動を充実させ、子供たちの学びの過程の更なる質の向上を図ること」と授業改善の方向を具体的に示す。
 その実現に向けては「実社会や実生活との関わりを重視した学習課題として、子供たちに身近な話題や現代の社会問題を取り上げたり自己の在り方生き方に関わる話題を設定したりすること」(「主体的な学び」の視点)、「子供同士、子供と教職員、子供と地域の人が、互いの知見や考えを伝え合ったり議論したり協働したりすることや、本を通して作者の考えに触れ自分の考えに生かすことなどを通して、互いの知見や考えを広げたり、深めたり、高めたりする言語活動を行う学習場面を計画的に設けること」(「対話的な学び」の視点)を例示した。
 その上で「『言葉による見方・考え方』を働かせ、言葉で理解したり表現したりしながら自分の思いや考えを広げ深める学習活動を設ける」などして、「深い学び」の実現を目指す。
 この他、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向け、学習・指導を改善・充実するため「ICTを活用することも効果的」と指摘した。コンピュータを活用した情報の収集と、情報の多面的・多角的吟味、大型ディスプレイを用いての発表、情報の交流を通して自分の考えを広げ深めるなどを例示した。

中教審

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